【インタビュー】大手メーカー3社編 「低炭素革命」─行動へ 「原子力ビジネス」と向き合う(1) 東芝執行役上席常務 五十嵐 安治 氏に聞く 東芝・WH、ライバル仏アレバ視野に 米でのABWR初建設に総力

―東芝が06年に米国のウエスチングハウス(WH)社を買収、日本メーカー3社主導による原子力産業国際再編の口火を切ってから3年、何がどう変わったか。

五十嵐 WHを買収し、原子力事業をともに推進していく仲間としてスタートしてからこの10月で3年が経つ。あっという間に過ぎた感もあるが、両社の技術、営業はじめあらゆる面における相互補完関係の地道な積み重ねがシナジー効果となり、3年前に比べ原子力プラント新設受注が具体的に動き出し、当面の主戦場である米国内や中国を中心に、われわれがその先陣に立つステージに入ったと思う。

WHというと一般には加圧水型軽水炉(PWR)メーカーと思われているようだが、2000年にWHの当時の親会社英国原子燃料会社(BNFL)がABB(旧アセア・ブラウン・ボベリ)の原子力部門を買収したこともあり、欧州では沸騰水型軽水炉(BWR)も手掛けている。東芝もWH欧州チームと仕事をしている。

米国では、BWR機器のメンテナンス、交換をWHが行いながら東芝がサポート、メンテナンスもしっかりカバーできる体制を確立したいと考えている。その点、WHは原子力関係で多彩な技術を持ち、東芝も将来対応を含めて研究開発を進めてきたので、交互に技術会議を開き顧客のニーズに即し役に立つにはどうしたらよいかを、常に念頭に置いている。

また、WHが世界市場に持つネットワークは強力で、たとえばフィンランドやフランスで、現地のWHチームと一緒に顧客訪問すると、東芝が、「日本の技術でこういうことができます」と説明するだけと比べ、地場に根付いている企業がペアになっていることで、非常な安心・信頼感を持たれるといった見えないシナジー効果≠ェ生まれる。原子力のような地域密着型のビジネスには、長年の実績のあるネットワークが非常に重要でWHの力は大きい。

一方、米国内の顧客を訪問すると、米国では長らく原子力発電所の建設がなかったことから逆に「東芝が長年日本で培ってきたプラント建設に関するノウハウをWHに移転し、日本のように『工期内・予算内』で完成できるようにしてほしい」という要望が非常に強い。したがって、われわれの建設工法・モジュール化や技術、ノウハウについてWHにいろいろ伝授している。

―プラント受注好調の要因にPWRとBWRの両タイプをそろえた効果が大きいのか。

五十嵐 現在のところ、そういう強みというよりは、たとえばWHで言えば新型PWRのAP1000が原子力ルネサンスの流れの中で非常に順調に推移した要因が大きい。WHはこれまでに米国内でAP1000を6基、中国で4基を受注、さらに6月には米国で新たに2基の建設・運転一括認可(COL)申請があった。政府のローンギャランティーも、最終候補7基のうちAP1000が4基、ABWRが2基含まれているが、決め手となったのは実現可能性と確実性にある。

つまり、WHがAP1000の設計認証(DC)手続きを完了、また、ABWRも日本での良好な運転実績があり、さらに電力会社が発電所建設地元のPA体制を整え良好な関係を築いているといった、長年にわたり地道に進めてきた努力が構想通りに実を結んでいる面が大きい。

―さて、原子力ビジネスの戦略部門となってきた燃料分野でも東芝・WHグループは一大攻勢に出ているが、今後の世界戦略の布石・枠組みは整ったのか。

五十嵐 WHが東芝グループの一員になり世界市場で原子力ビジネスを拡大しようとすると、南アでもそうだったが、最大のライバルはやはりフランスのアレバだ。アレバはウラン資源の開発、濃縮・加工といった燃料供給から、原子炉の基本設計、建設・運転、使用済み燃料再処理までの一貫体制を既に確立しているのに比べると、東芝グループが一歩遅れをとっているのが現状だ。特にこれからは途上国協力のみならず、米国内でもあまり原子力の経験のない小さな電力会社に、「原子力発電所の建設だけでなくワンセット≠ナ面倒を見る」と言えるかどうかが大きなポイントになる。

それだけに、東芝はまずカザフスタンでのウラン鉱山権益を確保したのに続き、WHもこれまで米国と欧州に燃料の加工拠点を持っていたが、世界市場をカバーするにはどうしてもアジア地域にも拠点が必要だと考え、今年5月に日本の原子燃料工業(NFI)の52%の株式を取得、経営権を握る形で実現した。NFIは住友電気工業と古河電気工業の折半出資会社で、P、B両炉型用の燃料を供給、しかも高品質のすぐれた製造技術を持っているので、WHの技術とのシナジー効果が期待でき意義が大きい。一方、NFIの両親会社は、同社の技術を世界戦略の一環で活かせる企業グループに経営を委ねることが最善との判断を下されたものと思う。さらに、今年7月にはWHが日本市場での営業活動強化策として新たにWHエレクトリック・ジャパンを設立、NFIと連携して事業拡大に乗り出した。

ただ、燃料部門でもウラン濃縮は極めて高度の技術を必要とする一段高い戦略分野で、ここをどう強化していくかは次の課題だ。東芝は、5月にロシアの国営ウラン製品販売会社TENEXと原子燃料分野における協力協議覚書を締結したのも、そうした戦略の一環であるが、具体的にはすべてこれからだ。

―ところで東芝は今年2月に米国のサウス・テキサス・プロジェクト向けに、140万kW級ABWR2基の新規プラント建設プロジェクト一括契約(EPC)を締結した。日本企業単独では海外で初めてだけに、これをどう成功させるかが今後を占う試金石になるのでは。

五十嵐 われわれもそういう覚悟で臨んでいる。ABWRは日本で実績があるのでそのままでいいのではないかという考え方もあるが、米国につくる場合には米国のライセンスに適合させる必要がある。そこで、WHのAP1000でライセンシングに携わっているエキスパートに、われわれがABWRのライセンスを申請する際にどういう観点で何をどうすればいいか、どういう資料をつくればいいか等、米国原子力規制委員会(NRC)が望んでいるポイントを押さえながら、ライセンスのサポートをしてもらっている。

この効果は顕著で、NRCも東芝がそういう能力があるということが分かってきたようで、建設・運転一括認可(COL)とは別の次元で「実際の建設工事を東芝に任せても大丈夫」というような諸状況が整いつつある。その意味で、ここでも今、確実性がより高まってきている。

さらに、経産省の国際戦略検討小委員会では、日本の原子力産業の強みは、プラントメーカーと電力会社だけでなく、それを支える中堅・中小企業を含めたすそ野の広いものづくり企業群(サプライチェーン)との三位一体となった協力体制であり、これが、世界の原子力産業をリードする原動力になっているとの指摘があった。例えば、ABWR関連でも日本で開発された部品のうち、一見同じように見えるバルブでも、中身はそれぞれ匠の技と経験・実績に裏打ちされた技術とノウハウに培われている。私はそういう日本の誇るものづくり力を大事にしたいとの思いが強い。

したがって、米国に初めてABWRを建設する際には、そういう信頼される機器を供給することが大変大事だと考え、国内のサブベンダーや機器サプライヤーには、われわれと一緒に海外進出し、原子力グローバル市場をビジネスチャンスにしないかと呼びかけている。これに対し、非常に前向きに「では具体的にどうすればいいか教えてほしい」と聞いてくる経営者も多い。ここで東芝として何よりも大事なことは、現実に仕事が確保されていることを示し、実感してもらうことだ。

そこで、6月に米国の電力会社や電力研究所(EPRI)などにも参加してもらい、41社の国内ベンダーに対して「米国向け原子力発電建設説明会」を開催、米国の市場動向、米国機械学会(ASME)の事業所認定やNスタンプといった規格・基準の取得ルール等について説明・意見交換した。国内ベンダーが原子力機器の供給事業を展開するには米国内でのベンダー認定が不可欠で、それにはある程度時間も必要となるので、2012年のCOL発給後のABWR着工に向け今年から具体的な活動を開始、全面的に支援したい。

国内の原子力発電所は、日本の英知を結集してつくりあげ、世界の評価を得てきているだけに、われわれとしてまずは米国でのABWRおよびAP1000をしっかり完成させたい。現実にプラントを建設する際には大変な努力が必要で、まだ課題も多く、日夜米国とのテレビ会議等で協議を重ねている。

特に設計者にとっては相当タフな毎日だが、そうした日本の若手設計者やサプライチェーン企業の努力が、「低炭素社会」実現に国際貢献すると同時に、日本国内での次の発展に寄与するという誇りと自信を持ってほしい。(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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