経済産業省資源エネルギー庁 原子力政策課長 三又 裕生 氏に聞く 日本の「総力発揮」へ 原子力産業サプライヤー支援にスポット

―資源エネルギー庁は8月にわが国原子力産業のサプライヤー企業に対する直接的な支援制度を創設したが、その背景は。

三又 米国でスリーマイル島事故以降30年以上にわたり原子力発電所の新規建設が途絶えたのをはじめ世界的な原子力冬の時代”にも、わが国はフランスと並び継続的に新規建設してきたことが、「原子力ルネサンス・グローバル化」時代を迎えた今、日本が世界のリーダーとしての期待と役割を担っている大きな要因だ。

しかし、例えば日本の産業構造全体で見ると1990年代後半以降、原子力分野の製造業の足腰が覚束なくなってきている実態が数字の上でも見て取れる。 例えば日本原子力産業協会の調査結果によると、ユーザー側の電気事業者から見ると年間建設基数はどんどん減少しているにもかかわらず、トータルの支出高に大きな変化はなく、これは建設費が減少した分、メンテナンスや核燃料費が増えているためだ。

一方、サプライヤー側から見ると、売上高、企業数とも92年のピーク以降、約15年間ずっと減少傾向にある。加えてメーカーの設備投資額と研究投資率は特に2003年以降半減しており、これは由々しき問題だ。国内の原子力発電市場の将来展望では、70年代後半から90年代前半にかけて建設された原発のリプレース需要が30年頃から本格化すると予想されているが、それまでの間はCO排出削減の追い風があっても新設は現在計画されている基数が限界なだけに、ここに需要の谷間≠ェ生じる。したがって、リプレース需要が本格化するまでの間、メーカーは現在の技術のより先を見越したイノベーションに努め、実力を養う充電期間≠ニすることが肝要である。

ところが、そこを民間の市場原理だけに委ねているとなかなか機能しないことが、資源エネルギー庁が08年度に実施した原子力関連産業の実態調査の結果からも明白になった。国内の新規建設需要が低迷する点で多くの企業が危機感を共有、こうしたマクロ的市場動向とミクロの企業動向が合致しており、このまま放置すると需要が低迷、事業も縮小していかざるを得ない。

また、研究開発投資も実態調査対象企業の多くで減少している上、内容も研究開発用設備の更新などのウェートが大きくなっており、自ら将来を先取りするような創造的投資に取り組むケースは稀だ。

―具体的支援対象に大手プラントメーカー3社以外で今回初めて、公募によって選定した5社のコア技術高度化支援がスタートした。その狙い、選定基準は。

三又 国内の原子力市場は極めてタイトだが、ここにひとつのグッドニュースがある。それは原子力をめぐる最近の世界動向だ。エネルギー安定供給、地球温暖化防止と経済成長を鼎立する側面から原子力発電の重みが一段と増し、本年9月に公表された国際原子力機関(IAEA)の予測では、30年の世界の原子力発電所の設備容量見通しは低位予測でも現在より40%以上(高位予測では2倍以上)増え、約140基と1970年代の原発新設ブームにほぼ肩を並べると見込まれている。

したがって今や日本のサプライヤーは中堅・中小企業も含めて国内のみならず世界に目を向けるべきであり、また国内でしっかり取り組もうと思えば、自ずと世界市場でも有利な立場につながる。こうした連続的な流れの中でわが国原子力産業が将来ともに一貫して強みを維持・発揮していくことが「低炭素社会」実現への国際貢献のみならず日本の国益につながる前提だと考えている。

このような認識の下、従来から行っている大手プラントメーカーへの政策的支援措置に加えて、新たに部材・素材等を提供する多彩なサプライヤーにもスポットを当てることになった。原子力産業のサプライチェーンは極めて裾野が広いが、今回はまずグローバル展開も念頭に置きながら攻めの投資”ができるテーマを優先した。

したがって高度化支援対象に選定された5社は、いずれも原子力プラントを構成する重要機器を製造、独自の技術開発実績を有し、各分野で高いマーケットシェアを保有・認知され、海外も視野に入れた種々のニーズにも応えられ、また、技術高度化の実現可能性・商業化の蓋然性が高い企業に絞った。

―これから正念場を迎える原子力ビジネスの国際展開では、国内のサプライチェーンメーカーと一体となり日本の総力をいかに結集できるかがカギと聞く。中堅・中小サプライヤーへの要望は。

三又 原子力立国計画でも掲げているとおり、国がまず第一歩を踏み出す精神でいる。また、サプライヤーについては今回の技術支援に続き、海外進出についてもどのような政策支援ができるか検討していきたい。原子力は今やわが国がポテンシャルを有する数少ない成長産業のひとつで、将来展望が開けている。一貫して原子力利用を推進してきたこれまでの日本の原子力政策を今一度評価してもらい、自信と自覚を新たにビジネスに取り組んでいただきたい。(原子力ジャーナリスト 中 英昌


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