Mo‐99 国産化めざし技術的検討 JMTR改造で安定供給へ

本紙でも度々取り上げている医療用アイソトープのモリブデン99(Mo‐99)供給危機だが、現在もなお、カナダのNRU炉の停止による不安定な状態が続き、日本アイソトープ協会では随時入荷状況をホームページ上で発表している。Mo‐99の子核種であるテクネチウム99(Tc‐99)を使った検査は、がんの治療前や治療後の経過をみる上で欠かせず、X線検査よりも早期に、苦痛も少なく異常を発見できる。またスポーツ選手の疲労骨折や骨粗しょう症にともなう骨折などX線検査では認められない異常の画像も映し出せる。Mo‐99を生産できる原子炉の全てが老朽化している今日、生産体制の確保が世界的な課題となっている。

原子力研究開発機構では、2011年度からの汎用照射試験炉JMTR再稼働にともない、Mo‐99製造の国産化について2008年11月より技術的検討を行っている。JMTRでの製造が実現すると、現在100%輸入に頼るMo‐99の国内需要の20%を担うことが可能。Mo‐99供給の不安定状態の緩和を見込んでいる。

JMTRは、原子炉用燃料および材料の各種照射試験ならびに放射性同位元素(RI)生産を目的として設置され、38年間操業したのち廃止措置がとられた。JMTRはホットラボと原子炉が水路で直結しており照射済み試料の輸送が容易なため、迅速な照射後試験や照射済み試料の再照射試験が可能である。科学技術学術審議会の研究計画・評価分科会が、2004年「原子力の研究開発に関する推進方策」で「今後、我が国における研究開発の基礎基盤を担う施設として、必要な更新を行い活用していくことを検討すべきである」とし、JMTRを改修し再稼働する方針となった。

2007年度から4年間で原子炉施設を改修し、再稼働は11年度からとなる。その後20年間利用し、2030年度頃までの運転を予定している。

新JMTRは軽水炉利用の長期化対策や科学技術の向上、原子力人材育成等の役割に加え、産業利用の拡大が期待されており、医療診断薬のTc‐99m製造もその一端を担う。

Mo‐99国産化に際し、照射ターゲット、照射装置、製薬会社への輸送、安定供給に係る項目を検討したが、大きな技術的問題点はない。Mo‐99吸着剤に関しては、大量製造時におけるMo吸着剤の耐放射線性、不純物除去性の検討を行う必要がある。また医薬品原料に関しては不純物除去性および不純物許容値の検討、1Ci/ml以上に比放射線率を高めるための検討が必要である。これらはインドネシアのバタン研究所で実証試験を行っており、来年4月頃には結果が出る予定。

JMTRでのMo‐99製造を阻む要因として、予算確保の難しさが挙げられる。その打開策としては、(1)医療目的であるという公益性を認めて国の予算から拠出する(2)ビジネスとして製薬会社が資金を投入する――などが考えられるが、現在のところそのような動きは見られない。

日本同様にMo‐99供給の100%を輸入に頼っていた米国は、ミズーリ大学内の研究炉でMo‐99国内需要の50%を2011年より生産していく計画を発表している。また、欧州原子力学会(ENS)の上級科学評議会は先月、医用アイソトープ(RI)の安定供給の確保、施設の運転や維持管理、放射性廃棄物の処理、デコミッショニング等に関連するリスクや労力を総合的に算出するためのみならず、健全で公平な経済的基盤にのっとったRI流通システムを構築するためにも「政治的な行動が必要」とする声明を発表した。日本でも早急な対策が求められている。


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