【論人】 十市 勉 日本エネルギー経済研究所 専務理事・首席研究員 北欧の新エネルギー事情

今年12月にコペンハーゲンで開かれるCOP15を前に、世界的に新エネルギーに対する関心がかつてなく高まっている。たまたま、今年の9月下旬、北欧のアイスランドとデンマークの新エネルギー視察団に参加する機会を得た。何事においても、専門家の話や書き物等からの知識だけではなく、現場での生きた情報を自分の目で確かめ、肌で実感することが重要だと思うが、今回は特にそれを強く感じる旅でもあった。

まず、アイスランドの首都レイキャビックは、北緯66度の北極圏に位置し、1986年に米ソ冷戦時代の終結につながるレーガン・ゴルバチョフ首脳会談が開かれた歴史的な街である。今回の訪問は、私にとっては初めてであるが、非常に懐かしい場所である。というのは、大学院でオーロラの研究をしていた時代に、北極圏の重要な観測地点としてその名前をよく聞いていたからである。

アイスランドは「火山と氷の国」と呼ばれるように、地熱と水力資源が無尽蔵に近く、一次エネルギー供給の82%を賄っている。国全体が、ギャオと呼ばれる地球の割れ目である海底山脈の上にあり、また氷河からは豊富な雪解け水が供給されている。近年、氷河の溶解が急速に進んでいることもあり、国民の地球温暖化問題に対する関心が非常に高い。そのため、電気自動車を本格的に普及させることで、エネルギーの100%自給体制とCOのゼロエミッションを同時に実現することを目指している。

同国は、昨年来の金融危機の直撃を受け、経済的な破綻状態にあるが、忍耐強い国民性もあり、社会的な混乱は全く見られない。その理由の1つに、豊富なエネルギーと食糧資源(漁業と羊の牧畜)が国民に安心感を与えているとの話を聞き、なるほどと納得した。

第二の訪問国であるデンマークも、国を挙げて低炭素社会作りに取り組んでいる。COP15に向けて、デンマーク産業連盟は、ブライト・グリーン(明るい緑)キャンペーンを実施している。その理念は、経済成長を持続可能な技術の開発で実現しようとするものである。面談した風力発電機やポンプ製造企業の経営者は、技術を武器に世界にビジネスを拡大したいとの強い意欲を見せていたのが印象的であった。

デンマークは、1980年の国民投票で原子力発電の開発を放棄し、新エネルギーの開発に力を入れてきた。しかし、一次エネルギー供給で見ると、石油44%、天然ガス21%、石炭21%、再生可能エネルギー14%と依然として化石燃料への依存度が高い。そのため、新エネルギーへの補助金の増額や炭素税の引上げ、研究開発資金の増額などを進めているが、その中で特に注目されるのが、風力発電の開発である。

デンマークの風力発電は、約5100基で310万kW、消費電力量の18%を供給しているが、これを2025年には50%にまで高めるとしている。すでに、陸上での風車建設の適地に限界が見られるため、洋上風力の開発に力を入れている。

デンマークは洋上風力発電では世界のトップに位置しており、今年9月には20万kWの洋上ウインドファームが稼働を始めた。同国の沖合は、水深が10〜25mと浅く、また日本のような漁業補償問題がないなど条件に恵まれている。

しかし、大量の風力発電の導入に伴う最大の課題は、電力の系統安定化の問題である。これまでは、風力発電の不安定な出力変動の調整を、送電線がつながるスウェーデン、ノルウェーの水力発電に頼ってきたが、限界が出始めている。そのため、出力変動を吸収する手段として、電気自動車の導入とスマートグリッド構想を検討している。

言うまでもなく、アイスランドやデンマークは、人口規模や自然条件など、新エネルギー開発を取り巻く条件が日本とは大きく異なる。しかし、技術力によって「低炭素社会」先進国を目指そうという点では、日本と共通している。日本人の自然を崇拝する心や物を大切にする倫理観は、自然環境を守ろうとする北欧両国の国民意識と相通じるものがあるとの感を強くした旅であった。


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