【Fresh Power Persons ― 座談会編 ―】 世界の仲間たちと原子力の未来を語った夏〜向坊隆記念事業WNU参加者座談会 求められるリーダー像を認識し日本が原子力の中心となる日へ 研修仲間から得た新しい視点 今後もネットワーク大切に

(出席者)鶴田健介氏・東京電力(株)原子燃料サイクル部ウラン事業戦略グループ、中里道氏・三菱重工業(株)原子力事業本部原子力技術センター炉心技術部、松澤幹浩氏・中部電力(株)浜岡原子力発電所技術部技術課、司会・原子力産業新聞記者 中村真紀子

原産協会では、原子力分野において国際的視野を持って国内外で活躍・貢献できる若手リーダーの育成を目的とし、2008年度より国内外派遣支援、奨学金等の人材育成支援事業を展開する「向坊隆記念国際人育成事業」を行っている。その一環として今年より、世界原子力大学(WNU)が毎年実施する夏季研修へ4人の若手原子力関係者を派遣する助成事業がスタートした。その若手4人のうち、都合で出席できなくなった貝森公大氏(日立GEニュークリア・エナジー原子力予防保全技術部技師)を除き、WNU夏季研修を終えた3人にお集まりいただき、同プログラムでの貴重な6週間の経験について語ってもらった。(文中敬称略)

高い目標を持ちWNU参加へ

司会 まず、現在行っている仕事内容と、今回のWNU夏季研修への参加動機は。

鶴田 私は、当社が参画しているウラン鉱山などの自主開発プロジェクトの投資管理、および新規出資案件の検討や交渉を担当している。

私が今回WNUに参加したいと思った理由は、第一に、30か国以上から100名を超える参加者がおり、人脈を構築する絶好の機会と考えたこと、第二に、ディスカッション中心のプログラムやリーダーシップを強化するプログラムにより、自分の能力を高められる機会だと考えたこと、第三に、原子力業界のリーダー達と接する機会に恵まれていることである。

中里 私の担当業務は主に高速炉の炉心設計で、さらに軽水炉を担当することもある。まず高速炉については、現在、国家プロジェクトとして進めている高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCT)プロジェクトに関し、2025年の実証炉および2050年の実用炉に向けて取り組んでいる。また、米国の国際原子力パートナーシップ(GNEP)プロジェクトにおいて、廃棄物を削減するための取り組みを行っている。また軽水炉については、例えば、US‐APWRの炉心設計や今ある軽水炉の取替炉心設計を行っている。

今回私が参加した理由は、今、世界で起きている大きな変化に寄与していくことができたらと考えたからである。今日、日本の三大プラントメーカーがそれぞれ、東芝はウェスティングハウス社、日立はGE社、私どもの三菱重工はアレバ社と組んでおり、この三大メーカーが、これから世界の中心となって原子力を進めていく機運が到来している。また一方で高速炉でも、これまで日本が開発を継続してきたことにより、日本の高速炉を世界の標準炉にできるかという大きなチャンスが与えられていると思う。これらに対し、今後日本が世界のリーダーとして率いていくためには、世界に対して何が足りないのかというギャップを見つけること、また世界が求めているリーダーの資質を認識することが大切だと思った。

松澤 私は今、原子力発電所で技術者として勤務している。主な業務は、日本や世界の発電所で発生したトラブル情報を分析し、それを発電所の運営面や機器面での反映を行って、発電所の安全性やパフォーマンスを向上させていくことである。

今回の研修に参加した理由の1つは、将来日本が世界の原子力業界を引っ張っていく原動力になりたいという思いを漠然とは抱いていたものの、私はこれまで国際的な経験が全く無かったので、海外で活躍している原子力技術者と直接議論しあう場を持ちたいと考えていたからである。その中で自分のポジションを確認し、自分の可能性を追求したいと思った。

もう1つは、日本語ではディスカッション力に結構自信があるものの、英語だと自分はどのくらい力を発揮できるか確認したかったからである。

哲学持つ参加者と質の高い議論

司会 WNUで特に印象に残った研修内容は。またさまざまな議論に参加する中で、どんなことを主張してきたのか。

中里 最後の討論の総仕上げとして行われたフォーラム・イシューが印象に残った。ここではグループ内で興味のある題目を選択してディスカッションを行って自分たちで解を見つけ出す。我々のグループは廃棄物処理を選び、みなとても目的意識が高く、活発なディスカッションがあった。時間が限られている中でも、各々の得意分野を活かして協力しながら参加者全員でつくり上げたことが非常によかった。

私は専門がもともと高速炉であったため、廃棄物処理に関し、「本来なら毒性が高く数万年ぐらいの監視が必要となるところを、高速炉のクローズド・サイクルを実現することによって、数百年規模に落とすことができる」といった主張をした。

また、今回学んだことの1つでもあるフランスの廃棄物処理の考え方についても言及した。まず廃棄物の貯蔵施設は、必ずリトリーバブル、つまり取り出しが可能なものという前提で、合わせて政策決定も繰り返し行い、もし今の決定が間違ったとしても、後で取り返しがつくような形にしている。それによってパブリック・アクセプタンスを得て、加えて、技術の進捗だけはたゆまず進めていく。ここが日本人としてはすごく印象に残った点であり、こうした方式やアピールも取り入れていくべきではないかと主張した。

さらに、原子力産業は燃料供給、輸送、賠償法と多国間の協力が必要不可欠であるが、廃棄物に関しても同様な協力が必要であることも提唱した。例えば、日本のように小さな国で地震も多く、廃棄物貯蔵のハードルが高い国、廃棄物貯蔵施設実証へのパブリック・アクセプタンスを得ることが難しい国等があり、これらを1か国だけで解決することは難しく、国際的なフレームワークが必要であるといったことである。

松澤 最も印象に残った点は、まず参加者それぞれが自分の意見を持ち、自分の哲学を主張するという姿勢が明確だったこと。参加者全員がそれぞれのトピックに対する自分の意見を持って必ず主張し、自分の意見と違う方向に行けば必ず反論するという姿勢はすごく強い。

自分で主張するよう心がけたのは、例えばレクチャー等で語られた理論と現場でそれを生かす際のギャップについて、できるだけ実例を用いて話すようにしたことだ。自分が今、原子力発電所という現場で技術者として働いていく中で学んだ実際の発電所運営や、国民がどのように感じるかという現場の声は他のグループメンバーにとっては新鮮な意見だったようだ。

またこれはWNU側への希望だが、日本人の講師をぜひふやしてほしい。日本待望論はすごく強く、欧米人講師と日本人講師のレクチャーを立てて違いがわかるようにすれば、議論はもっと進むはずだ。

鶴田 特に印象に残ったテーマの1つはパブリック・アクセプタンスについて。日本で過去に実施された世論調査では、約6割の方々が原子力に対して関心がないという結果があった。他の参加国でも世論は同様に関心がない、もしくは否定的な国民の比率が高いという意見であり、では参加者一人一人はどのような方法で現状を変えたいと考えているのかと話し合った。

各国の参加者が課題として共通認識を有していたのは、国民の一番の情報源がマスメディアであり、印象に残る原子力情報の多くが、事故情報などネガティブな出来事だということだ。

改善に向けては、第一に、日本をはじめとする原子力先進国が安全最優先で原子力の平和利用に一層努めるとともに、原子力を今後採用するであろう国々に、安全文化や法制度といったインフラ構築面や、ノウハウやスキルの提供面において協力していくことで、原子力トラブル発生のリスクを軽減することが望ましい。

第二に、原子力に対するイメージが出来上がっていないと思われる幼少の頃に、原子力について学び、原子力について考える機会を強化することも効果的ではないか。そして、その為に原子力業界や国がより積極的に関わっていくことが必要だということ。なお、原子力業界では、正確に伝えることに重きをおくあまり、非常に難解な専門用語やネガティブなイメージを持つ用語を使用しているケースがあると感じる。参加者とは「原子力のリブランディング」の概念で、今後はポジティブで分かりやすい用語で、原子力について語っていく努力も大切であるという議論をした。

松澤 報道については、特に欧米諸国のうち、自国の報道について、「ネガティブな面を強調するわけではなく、事実を客観的にそのまま伝える姿勢がある」と評価していた参加者が結構いたが、彼らの話が本当だとすれば、科学的・工学的な分野の事象に対して、日本より欧米の報道の方が理性的に対応できているのかもしれない。

例えば事故が起こったとき、「このようなことがありましたが、問題ありません」ということをまず迅速に伝える。このことが徹底されているとのことだ。新潟県中越沖地震の柏崎刈羽原子力発電所への影響について話をした際、彼らは、「たったそれだけなのに、あんなに騒いだのか」と驚いていた。もちろん報道の仕方は、日本と欧米の文化の違いが影響しているのかもしれないが欧米のほうが冷静な対応が出来ているという点で、良いのではないかと感じた。

ポジティブな原子力観に学ぶ

司会 WNUにはさまざまな国からの参加者がいるが、新しいと感じた視点はあったか。

鶴田 日本にいると、原子力というテーマは、例えばプライベートで雑談している時などに取り上げにくいトピックだと感じていた。しかし参加者に限らず、欧米を始めとする多くの国・地域の方はプライベートでも積極的に原子力について語ってくる。今まで原子力というのは比較的クローズドなトピックと思っていたが、話せば関心を持ってもらえるので、もっとオープンなトピックとして、取り扱うべきテーマかもしれない。原子力について「興味がないから関心がない」のではなく「よく知らないから関心がない」と改めて考えさせられ、今後はプライベートでも原子力について紹介し、関心を持って頂きたいと感じるようになった点で、意識が変わった。欧米ではもちろん、特にまだ原子力を導入していない国の方々は、原子力は誇れる技術であり、導入することは先進国の仲間入りといった観点もあり、そう捉えればプライベートで語るのも当然なのかとも思った。

松澤 欧米からの参加者は、原子力をものすごくポジティブに、国際マーケットとして考えている。日本だと「原子力は公益事業だから、安全に運転して、国民の信頼を勝ち得ることが一番」という考えが先行しており、もちろん彼らもそれを最優先事項としていることに違いはないが、それにプラスアルファで、「原子力は国際マーケットだから、他にマーケットがあるならそこに参入する」という常に攻めの姿勢で考えている。日本だと利益性を全面に押し出すことは良くないという雰囲気があるが、世界規模で原子力事業の価値を最大化させるためにはそういった市場原理というものがあっても間違いではないのでは。そうしたモチベーションを与えることで、結果的に原子力事業により多くの人をひきつけることができる可能性もある。大きな成果を残すためには、できるだけたくさんの人を巻き込む必要があるので、その手段の1つが経済性であってもいいと私は今回思った。もちろん、利益の優先が原子力安全に勝るということは決してあってはならない。

中里 例えば、スウェーデンからの参加者は、パブリック・アクセプタンスに関する意識が非常に高かった。 また、これまであまり接することがなかった国だが、南アフリカからの参加者のリーダーシップには本当に驚かされるところがあった。我々のグループでは当初、誰もリーダーシップをとることもなく、適当に議論を行っていたときもあったが、彼がネイティブ・スピーカーとノンネイティブ・スピーカーにはもともと差があるから、それを埋めるための努力を自分達はしなくてはいけない、ネイティブ・スピーカーは、ノンネイティブ・スピーカーのためにきちんと議事録を用意してあげて、同じ土俵で勝負しなくてはいけないということを発言し、率先して取り組んでいた。

他にもさまざまな人と触れ合い、授業ではきちんとディスカッションするが、ひとたび離れると、本当に気さくな方ばかりで、くだらない話もすることもあった。そういった中で、当初非常に大きいと感じていた世界が、実は小さな世界であったとの印象を受けた。

松澤 英語のできない人の気持ちをくみ取ってくれるような、全体のことを考えてくれる参加者は、思ったよりも多かった。研修参加前は、きっとお互いの意見を否定しあう言い合いになると思って、私は戦いに行くと感じていた面があった。しかし意外に、英語が出てこないで困っているとネイティブが言いたいことを代わりにまとめてくれるなど、サポートしてもらえることが多々あった。グループ・ディスカッションでも、発言できない人に必ず意見を言える場を提供する雰囲気はある。

今後、もし我々が日本語で議論を行うところに外国の人が来たとしたら、我々もそういう姿勢で臨むべきだと思った。大学時代に自分の研究室にも外国の方がいたが、それを今考えると少し申し訳なかったと思う。

ディスカッション今後に活かす

司会 WNUの研修を終えて、この経験を今後の仕事にどのように活かしていくか。

中里 今回学んだ成果として、まず一点目は、原子力全体のフレームワークを理解でき、それによってさまざまな機関の視点から原子力業界を見ることができたこと。これは設計にも活かすことができると考えている。二点目は、世界中へのネットワークの構築。三点目として、元々パブリック・アクセプタンスや透明性は非常に重要なものだと理解していたものの、それが欧米では我々が考えた以上にもっと重要視しており、それなら、設計にもそれを活かせるのではと考えさせられたこと。例えば、説明性の高い設計を取り入れるといったような設計思想にまで戻るのも一案では。四点目として、まだまだ日本は世界に対してアピールが足りないことへの認識。自分が正しいと思うことであれば失敗を恐れずに、世界で初めて実施していくことがとても大切であり、有効なアピールになると感じた。

これから日本のメーカーを中心にして業界が動こうとしており、今後の10年間が非常に重要だ。高速炉も同様に正念場を迎える。微力ながらでも、今回の成果を活かして貢献できたらと考えている。

松澤 研修に参加して、まず、自分の今後の課題を見つけることができた。特に、国際的な枠組みで考える姿勢が足りないと感じた。今までの私のキャリアからどうしても国内だけに目を向けがちだったが、もう少し広い視野を持って考えれば、世界のほかの国とタッグを組んで課題を解決するという考え方もあることに気づいた。

また、思ったことを英語でまとめるのに時間がかかり、なかなか意見が言えないことが多々あった。日本語では自分の意見を言えないという経験がなかったので、意見を言えない人の気持ちを配慮したり、まとめる際にそういった人の意見を吸い上げようとしたりすることができていなかったかもしれない。今後発電所でディスカッションや会議の際に、埋もれている意見があるのではないかと意識して運営していきたい。

鶴田 WNUでは100名の参加者達と有意義な時間を共有でき、よい関係を構築できた。今回得られたネットワークは今後もきちんと維持していきたい。

議論を通じウラン業界や市場の今後の発展についてサプライヤーの視点に触れられることができた点などは、現在のウラン調達の仕事にも非常に意義深かった。オフィシャルベース、もしくはアンオフィシャルベースで、ウラン市場をはじめ、幅広く原子力に関する情報の交換ができるソースを確立したことは今後に活かせると考えている。

ディスカッションなどで苦戦する場面もあったが、自分の能力のどこが不足しているかを痛感することができ、今後は足りないと感じた部分を高めていきたいと思う。

自分の意見持ちぜひ参加を

司会 これからWNU夏季研修に参加したいと希望している若者たちへどんなメッセージを伝えたいか。

中里 WNU参加者にはさまざまな人がおり、どのようなバックグラウンドを持った方であっても、その人が今後自分自身を飛躍させるような、またとない機会になることは間違いない。ぜひできるだけ多くの方にこの研修には参加していただきたい。

また、WNUから帰ってきたその時の熱意を覚えておくのは非常に重要。研修を終えて帰国したら、自分のアクションプランを掲げ、それを社内外に発表するなど、その熱意をみんなに公表した上で、忘れずに努力していっていただきたい。自分もそうするつもりだし、それが自分の責任でもあると感じる。

鶴田 中里さんの意見に共感する。WNUの募集要項や過去の参加実績からは、エンジニアなど理系や技術系と言われる方の参加が多いと感じるかもしれない。しかし、ディスカッションでテクニカルな側面に重きが置かれ過ぎる場面において、経済性や法的有効性の観点から議論に深みを持たせることができるなど、文系・事務系の方でも十分活躍できる場だと思う。今後は、そういった方々の参加が増えていくことも望ましいと思うので、是非応募して頂ければと思う。

松澤 英語力が足りないと思う人も、勇気を出してと言いたい。私自身、英語力が足りないと実感して後悔はしたが、それでも意見を言えば聞いてくれるし、意見を吸収できる場面も多い。こうした機会はすごく貴重なので、ぜひ応募してほしい。

そして参加する人には、まず何に対しても興味を持って、自分の意見を主張していく姿勢が大切だとアドバイスしたい。自分の意見さえあれば、レクチャーの内容に対し異論を唱えることも肯定することもできる。みんなは他の参加者がどういった意見を持っているのか聞きたいと思っている。こちらが意見すれば相手はその意見に対し、必ず何らかの反応・回答をぶつけてくるので、彼らの意見も聞けて吸収できるものが多くなる。

司会 6週間の研修を通し、それぞれ大きな成果が得られたことが伺えた。今後も原産協会では向坊記念事業としてWNUへの派遣を行っていく。貴重なお話、ありがとうございました。

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〈WNU夏季研修〉

世界原子力大学(WNU)は、原子力平和利用のための国際的な教育訓練計画を進めるパートナーシップ活動として、2003年、英国に設立された。WNU夏季研修は、WNUの活動の一環として、原子力分野において国際的に活躍できる次世代リーダーの育成と原子力国際教育を目的として、リーダー間のネットワーク構築を図るプログラムである。

全体講義、グループ討議、プレゼンが5週間、関係施設見学が1週間。世界の原子力実業界、学界、国際機関などの関係者が講師を務め、メンターが参加者をサポートしていく制度もある。特に10人程度のグループワークに重きが置かれ、議論方法等も自主性に任される。2005年にスタートし、毎年夏に6週間の日程で行われる。

09年は7月5日から8月15日にかけて英国オックスフォード大学で開催され、38か国、平均年齢31歳の約100名が同研修に参加した。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで