〈文部科学大臣賞〉松原倭子 秋田県秋田市立山王中学校2年 放射線滅菌に守られた医療材料たち

小さいビニール袋に入った細長い棒状のものやチューブ類、ガーゼ状のもの、1つひとつ包装され取りやすい位置に並んだ品々。それらは、病院の診察室に常備された診察用の材料。友人と二人、職場体験で梅雨の合間に総合病院を訪ねた時に見た光景でした。それぞれの部屋で、考えられた位置に整然と置かれて、出番を待つ医療材料たち。その光景は、次の日に見学させていただいた小児科医院の診察室でも同様でした。

今、世界中でエコロジーやリサイクルということを大切にしています。しかし医療の現場では「完全なる無菌」が最重要であり、あえて「使い捨てる」ことで体の弱った患者を感染の危険から、守っているのです。品物を粗末に扱うこととは違った重要な、意味の深い循環です。

とても恐ろしい雑菌群は目に見えない力を持ち、体の中で悪さをします。体の不調を持った人々が集まる病院内では、それらの感染から守ることが第一条件であり、とても大切なことです。

では、どのようにしてこの「完全なる無菌」を日々、保つのでしょう。

私が知っている消毒法は、ガス、アルコールなど、薬品を使う方法や、蒸気で行なう高温滅菌法です。そこで注意深くワゴンの上の箱を見てみるとほとんどのものに滅菌済みと記されており、さらに包装には、放射線滅菌、ガンマ線等の文字とともに数桁の数字が並んでいました。後で、その数字はロット番号といい、製品出荷の際に生産時期やライン、責任者や検査状況が記された信頼の証明であることを父から教わりました。最も信頼された滅菌法である放射線滅菌、この方法には多くの利点があり、生産現場では一番広く利用され、他の方法に比べても一段とコストが抑えられ、また、量産できる点も大きな特長です。

しかも、常温で梱包後も透過可能なため、使用範囲が広く、化学系薬剤使用と比べて残留薬剤の心配もありません。極めて短時間で出荷できる点にも気がつきました。

利点が多い放射線を安全に利用するためには厳しいルールも必要です。規格を科学的にあらゆる面で議論し、国際規準を定め、何重もの管理下で生産後、医療現場へ送り出されるのです。医療材料の中でも手術に使われる器具、体に挿入するチューブや針などは、放射線滅菌なくしては生産は難しいとさえ思います。

以前、わが国では針の使いまわしという行為により肝炎に感染してしまった悲しい出来事が起こってしまいました。滅菌済み針を使用していれば防ぐことができたことです。残念ではありますが、教訓として心に刻まなければならないことの1つだと思います。

日本という国には、手仕事や工芸など、職人の手と技によってつくりあげられ、守られてきたすばらしい技術と文化があります。鍼灸のはり製造技術は、まさに世界に誇ることができる職人技と聞きます。私は、こうして生み出された製品に最先端科学の放射線滅菌が施され、完全無菌となって運ばれて行く光景が思い浮かび、誇らしい気持ちになりました。

放射線といえば、まずガンやさまざまな病気の治療を考えていた私。職場体験で医療材料の品々と出会い、気づいたこと、それは、原子力科学の功績や発展に力強く守られていることです。さらに希望の中で研究が重ねられ、そこに私たちの安心安全な暮らしがあるということです。

この先、病院にお世話になることがあったら私はおそらく、真っ先に診察室の棚に目を向けることでしょう。救急箱を前にし、今、私は、病院内で元気に、笑顔で働く将来の自分をイメージしながら、大切なガーゼの袋をそっと、やわらかく手の中に包み込みます。

放射線により完全無菌となった袋を、けっして、傷つけることのないように。


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