〈文部科学大臣賞〉鈴木翔 北海道函館中部高等学校(北海道)1年 国民の幸せにつながる電力源選択とは―ベストミックスの中に原子力を―

世界中で唯一の被爆国となった日本は、原子力という言葉に異常なほどのアレルギーを示すようになった。そして、少しでも「原子力賛成」「原子力発電も良いのではないか」と言おうものなら、まるで「戦争推進者」「核兵器容認者」というレッテルでもつけられそうな雰囲気がある。

「原子力は核兵器につながるもの」「プルトニウムやウランは危険なもの」……この文言は、北海道電力が進める泊発電所のプルサーマルに反対する人たちが、ハンドマイク片手に叫んでいた言葉である。私は本当にプルサーマルは危険なんだろうか、この人たちは北海道や日本の電力事情を正しく理解しているのだろうかと疑問に感じていた。

それは、以前見学したことのある北海道電力原子力PRセンター「とまりん館」での説明が頭に残っていたからである。北海道では、現在、泊1号機、2号機が運転し、道内の総電力量の約19パーセントが原子力発電である。そして、12月から本格運転となる泊3号機を合わせると、約40パーセントが原子力発電に頼ることになるのである。原子力に反対している人たちは、この現実を知っているのだろうか。もし、今、北海道や日本各地の原子力発電所の稼働が止まったら、私たちの生活は成り立つのだろうかと尋ねたい。答はもちろんNOであり、私たちは平和利用としての原子力の恩恵に大いにあずかっているのである。

また、「日本のエネルギー自給率19%(原子力を含む)、原子力を除くと自給率4%」という現実をどれだけの人々が理解し、危機感をもっているのか……、おそらく日本国民のほとんどの人は、あまり関心がないと思う。

実際、安定した電力確保に向けて、日本はいくつかの大きな課題を抱えている。その1つは、石油・石炭・天然ガスなどの化石エネルギーの限界である。それぞれの天然資源の埋蔵量には限りがあり、新技術が開発されたとしても、いずれ資源は枯渇することは明らかである。

そして天然資源が乏しく、そのほとんどを輸入している日本は、戦争や国際紛争など政治情勢が不安定になると、途端に石油や石油製品の値上がりが続き、時には物不足で社会全体がパニックに陥る経験をしてきた。昭和50年代に起きた物不足、最近ではガソリンや重油などの価格がわずかな期間に急騰し、漁船が一斉休漁したり、運送会社のトラック便が激減したことなど、石油の確保や価格は物流システムなど社会の根幹にかかわる面をもっているわけである。

2つめは、二酸化炭素などの排出による環境問題である。ここ数年、原油投機によるガソリン高騰や地球温暖化の関心の高まりとともに化石燃料の代替え燃料としてアルコールが注目され、サトウキビ・トウモロコシを原料とした燃料が利用されてきた。「地球にやさしい」という心をくすぐるような言葉とは反対に、食糧である大豆・トウモロコシの価格は大幅値上がりをし、発展途上国では日々の食べ物にさえこと欠く状況を生み出してしまった。

また、自然エネルギーの活用では、風力発電が世界一のドイツと比べて、日本は設置数・総発電量とも極めて少ない。その理由としては、@安定して強い風が吹く陸地が少ないA山岳地が多く平地に人口密度が高く立地に適していないB洋上立地にしても遠浅な海域が少ない――など風力発電を推進する条件が日本にはそろっていないのである。地熱発電に目を向けても、地中深くのマグマの熱を利用して蒸気でタービンを回す発電システムは、総電力量が数万kW程度の出力のため、活用できる地域と使途は限られたものになっている。

3つめは、コストの面である。いかに環境に良いからといって、発電コストを無視できるわけではない。電気事業分科会の報告によると、燃料費・設備費・人件費などを加えた1kW時当たりの算出では、原子力発電が5.3円、火力発電は5.7〜10.7円、水力発電は11.9円になっている。単純に価格だけで比較できるわけでもなく、原料の調達・二酸化炭素の排出量・電力需要など、その利点、欠点条件などさまざまな観点からの選択が大切である。

また、リサイクル面から考え、原子力発電所で使い終わった燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜて新しい燃料をつくり、再び利用する「プルサーマルの流れ」が安全に機能し、これらのことが国民の間に「原子力は、安全・クリーン・安価・環境にやさしい」ことが浸透していけば、国民の原子力への意識や関心は変わってくると思う。

冒頭の「原子力は核兵器に」「プルトニウムやウランは危険」と叫ぶことは簡単である。しかし、夢物語のような再生可能で環境に影響のないエネルギーは存在しないという現実を直視した時、私たちは今の文明や社会を持続させていくためにも、1つの選択をしなければならない。それは、原子力に対するイメージを、危険なものというマイナスから、期待・安全・信頼・リサイクルというプラスのイメージ転換を図らなければならない。そして、電力源の特性とこれからの社会の電力需要などを見越して、綿密な計画を立て、実行していかなければならない。

ヨーロッパの国々のように、他の国から電力を購入することが難しい日本では、国民が安全に安心して快適に生活できるため、安定した電力を確保することこそが最大の使命である。そのためにも特定の電力源ではなく、何か不測の事態が起きても対応できるバランスの良い電力源の選択と、非難や批判だけではなく、あらゆる世代・多くの立場の人々が、原子力を支えていくという考え方で、原子力を利用していくことが重要だと思う。日本の電力源のベストミックス、その中に原子力が多くの割合を占めることは言うまでもない。


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