〈日本原子力研究開発機構理事長賞〉塚田凪歩 石川県立金沢泉丘高等学校1年 未来は、放射線と共に

この論文を書くにあたって、私は自分の原子力についての知識の浅さを思い知らされた。

原子力発電所などに関しては、中学の理科で学習した、二酸化炭素を排出しない、少ない燃料から膨大なエネルギーを取り出せるといった利点、放射性廃棄物の処理、事故の危険性といった問題点。それらのことは当然のように知っている。

しかし、それだけなのだ。それ以上のことを何も知らないのだ。それは日頃から原子力への関心があまりなく、家の近くに原子力発電所があるわけでもないからかもしれない。だからこの機会に、自分にとって身近な話題を調べてみようと考えた。

今、私が最も興味を抱いているのは、医療関係だ。今のところスポーツ・トレーナーになりたいと思っている。必死に頑張る人をサポートすることで、全力で彼らを応援したいのだ。そのために、私は医学部へ進もうと考えている。さまざまな治療法を知り、医師の免許を取得し、幅広い面で選手の手助けになれるようにするためだ。そこで今、医学界では原子力がどのように活躍しているのか、そしてどんなことが期待されているのかを自分なりに調べてみた。

原子力と医療の関係を調べてみると、放射線を使った治療について、身近にありながら全く知らなかった部分、誤解をしていた部分が数多くあることに驚かされた。病院ではよく耳にする「放射線治療」や「X線」といった言葉。私の勝手なイメージだが、放射線と聞くと原爆が頭に浮かびあがる。広島や長崎に落とされ、放射線を受けた罪のない多くの人々が命を失った。戦後60年以上の月日が流れた今でも、その後遺症に苦しむ人がいる。彼らにとっても、その時代を体感していない現代の私たちにとっても、決して忘れてはいけない後世に伝えていかなければならない悲劇である。これだけ私たちに深くその恐ろしさを植え付けている放射線。それを治療で体に当てるというのだ。本当に安全なのか。髪が抜けるなど体に何らかの影響はないのか。そういった感情を持つ人は、少なからずいると思う。

しかしそれは誤解だということを今回知った。放射線治療は局所の治療であり、当てた以外のところには決して反応はでないのだ。これが放射線治療の利点である。ガンの治療法を例にあげると、この治療ではガン細胞と正常細胞との差に着目してガン細胞だけを破壊するのだが、互いに見た目が似ていて、ガン細胞だけをたたくというのがとても難しいのだ。放射線でガンを治すには、ガン組織に放射線を多く当てなければならない。そこで、ガン組織に多くの放射線を当てつつ、正常組織の放射線の量を減らそうとする試みがなされてきたのだ。現在では、いろいろな方向からガン組織に目がけて放射線を当てることによって、太陽光を虫眼鏡で集めるように、広い範囲から放射線をガン組織に集中させることができる。これにより、ガン組織に高線量を照射しつつ正常組織の線量を減らすことができるのだ。また今、定位放射線治療というものがはやっていて、放射線を多く当てたいガン組織と正常組織の中でも特に放射線を当てたくない体積を決めて、現在のコンピュータ技術を駆使して最適な放射線治療計画を立てられるのだ。

しかしこれらの放射線治療にも弱点がある。ガンが身体の比較的深い位置にあり、近くに放射線で損傷を受けやすい臓器がある場合、ガンの治療に十分な放射線量を目的の部分に照射することができないのである。そこで開発されたのが陽子線療法だ。このように、私の知らない治療法が数々研究、実証され、利用されてきている。

このガンについては調べて分かったのだが、現在国民の高齢化により「2人に1人がガンにかかり、3人に1人がガンで死亡する」という状況なのだ。このような状況の中で、放射線治療は「切らずに治す」「体にやさしい」といった面でとても期待されているのだ。治療における「最終手段」なんかではなく、率先して利用していくべきものなのだ。私に限らず、多くの人はこのことを知らないだろう。世界唯一の被爆国である日本の人々にとって、やはり放射線を使うというのは「怖い…不安…」という思いが強い。したがって知識も浅いのは当然のことかもしれない。

しかし、今回私が調べたわずかな資料でも、放射線はこれからの医療に欠かせない重要な存在であることがわかる。だからこのことを多くの人が知る必要があると思うのだ。どんなに良い技術が生まれても、それを積極的に利用していく姿勢がなければ意味がない。医師や放射線技師だけがそれに精通しているだけではだめなのだ。

医療について無知な私にでも分かりやすい説明や資料は、インターネットで簡単に見ることができる。ただ、そのきっかけが必要なのだろう。小学校、中学校、高校での積極的な講演の実施や、理科や社会でもっと原子力の現実を深く知る機会をつくっていくべきだと私は思う。

今、日本は医師不足に悩まされているが、放射線治療医の数も極端に不足しているそうだ。そんな中、放射線治療を必要とする患者数は高い比率で増加してきており、今後10年間という短い期間に約2倍以上の需要が発生すると推定されている。このまま深刻な人材不足が続けば、いずれ放射線治療を受けたくても受けられない患者や、何か月もの予約待ちを余議なくされる人が多く出てくると思う。

欧米では、国家戦略としてガン撲滅に取り組み、ガン患者のおよそ半数が放射線治療を受け、ガンで亡くなる人が急速に減っているのに対し、日本ではガンで死亡する人の統計も未整備な状態なのだ。

まだまだ課題はあるものの、放射線はこれからの時代に確実に必要だ。子供からお年寄りの方まで全ての人の安全な治療を可能にする…そんなヒーローの存在を、日本の未来のために、まずは一人ひとりが「知る」ことから始めていくことが重要ではないだろうか。


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