【シリーズ】原子力発電「支えの主役」コア技術編(4) IHI 大型蒸気発生器実用化開発 PWR機器も手中に 製造技術開発に総力結集

IHIは、ものづくり技術を中核とするエンジニアリング力に卓越した日本の代表的総合重工業メーカー。わが国の原子力開発当初の1955年から原子力事業に着手、東芝が建設する沸騰水型軽水炉(BWR)の心臓部である原子炉圧力容器をはじめ格納容器、熱交換器、配管などの主要機器を一手に供給、特に圧力容器の生産実績では世界最多を誇る。

このように原子力事業ではこれまで、東芝のパートナーとしてBWR主要機器のメインサプライヤーの地歩を築いてきただけに、東芝が加圧水型軽水炉(PWR)を開発した名門会社・米国ウェスチングハウス(WH)社を06年に買収、日本プラントメーカーとして初めて両炉型を手中に収めた際には、IHIもWHに3%資本参加した。「その当時から、いずれIHIもPWRの主要機器を担うとすれば課題はPWR固有の蒸気発生器(SG)の製造にあり、技術開発が必要だとの認識で準備を進めてきた」(玉野昌幸IHIエネルギー事業本部原子力事業部長)と語る。

BWRは格納容器内の原子炉圧力容器内で沸騰した蒸気がそのまま格納容器外の蒸気タービンに入り発電するのでSGは不要。これに対してPWRは圧力容器、加圧器、SGが格納容器内に収納され、SGで一次系冷却水が二次系冷却水と完全に分離されている。BWRは炉全体として構造が単純だが放射能管理区域が広く、一方、PWRは格納容器外に放射化された冷却水が出ないので放射能管理は格納容器内だけに限定される利点がある半面、複雑な構造をもつSGが必要となるといった一長一短がある。

今回、原子力技術高度化支援対象になった「超大型SG実用化開発」は、これまでBWRに特化してきたIHIがPWRに進出するカギを握るとともに、大型化・高性能化が進んでいる最新鋭の超大型SGの製造に必要な技術開発を支援することで将来に向け日本の原子力産業力を一段と向上、強化することが狙い。また、東芝が原子力発電グローバル化本番を迎え原子力ビジネスで世界のイニシアチブをとる動きに合わせて、IHIはBWRのみならずPWRについても長年のパートナーとして格納容器や圧力容器、SGなどといったメイン機器を供給し、原子力発電の安全性・信頼性の向上に貢献したいとの思いが強いようだ。

SGを製造するためには、BWRの原子炉系機器製造で培った各種溶接・組立技術や検査技術などの基礎技術に加え、SG固有の技術を必要とする。例えば、大型の管板に多数かつ密なピッチで配列された管孔を高精度であける、あるいは伝熱管の振動を防止するため多数の振れ止めを高精度に設置・溶接する高度な技術が要求される。しかも最新鋭炉は大型SGが採用され、大出力、高性能化が図られている。SGが大型化すると伝熱管の本数も増え、構造が複雑となるので、より高度な技術が要求されるとともに、それらの製造プロセスを管理する技術が必要になる。

日本ではこれまで三菱重工業がWHと提携、国内のPWR市場を独占してきただけに、IHIはPWRにおいては後発メーカーになる。こうしたハンディについて玉野氏は、「むしろ、これまで先人が苦労して開発してきた技術・システムを自らしっかりつかみ、逆にBWRで培ってきた技術、経験や最新鋭の機器導入などと合わせ後発の強み≠ニして生かしたい。そのうえで、伝熱管本数・穴あけ個所の増大、システム技術の高度化には生産工程をできる限り自動化しヒューマンエラーを取り除くことに努める」方針である。

したがって今回の超大型SG製造技術開発プロジェクトは、IHIにとってグローバル化する原子力ビジネスの巨大世界市場に挑戦する技術を身につけるべく、ビジネス拡大・産業力維持発展の要ともなるだけに、全社挙げて取り組む。

原子力事業部のある横浜事業所内には、技術開発本部もあり、試験設備の利用や技術者との交流も一体化でき、しかもSGの生産に不可欠な大型機械加工工場も横浜事業所内にある。また、東芝工場のエンジニアリング部隊とも隣接する好条件がそろっている。

さらに現在、SG開発プロジェクトチーム(約80人)を立ち上げ、原子力発電所向け主要機器を製造している横浜第一工場の横に来年末完成をめどにSG新棟を建設、3年間で50億円を投じて生産体制を整える計画である。 (特別取材班)


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