「へしこ」製造に原子力技術 多分野で活かされる産学連携の成果

旅に出て各地の四季の彩りを味覚で楽しむのもまた格別だ。原子力を数多く立地する福井県の若狭湾では、「へしこ」と呼ばれる伝統的名産品があり、若狭地方の「秋のうまいもん」のひとつにあげられている。

「へしこ」は、サバ、イワシなどを塩漬けにし、米糠で発酵させたもので、かつて「へしこ」を製造するには、糠漬けによる熟成に約1年を要していた。しかし今では、これが3か月程度でできるようになった。ここには、原子力分野の産学連携による成果が活かされている。日本原子力研究開発機構が有する放射性物質処理のための温度・圧力のコントロール技術を、福井大学と「へしこ」を製造している食品会社とが応用し、開発を行い、短期間での製造に成功したのだ。

このような産学連携の取組は、環境、エネルギー、農業、医療、材料、ITなど、多分野にわたり、商品・サービスとして、市場化につながった実例は、今秋、都内で開催された「イノベーションジャパン2009―大学見本市」(=写真上)に見ることができる。ここでは、400件を越える大学発の先端技術シーズが一堂に集結、研究成果を産業界に強くアピールし、新たなビジネスチャンスをねらう企業に対しマッチングの場を提供している。

見本市では、内閣府が毎年、大学、公的研究機関、企業等の連携活動で優れた成果のあった事例を称える「産学官連携功労者表彰」の受賞企業から、その「サクセスストーリー」を聞くイベントも行われた。今年の「産学官連携功労者表彰」だが、本紙関連では、文部科学大臣賞を理化学研究所、サントリーフラワーズ(株)による「重イオンビームを用いた新しい育種法の開発」、経済産業大臣賞を藤田保健衛生大学、佐賀県、東芝メディカルシステムズによる「四次元CT装置の開発」などが受賞している。

「四次元CT装置の開発」は、臨床医らとも共同で、世界で初めて人体臓器を動きある立体画像として鮮明に映像化する装置開発に成功したもので、既に「Aquilion ONE TM」として商品化されている。同機はこのほど、「機械工業デザイン賞」(日刊工業新聞主催)で最優秀賞も受賞した。

原子力分野における産学連携については、原子力機構の産学連携推進部が、その保有する高度な技術や知的財産など、研究成果を広く社会に還元することを目的として、民間企業と新技術による研究開発を進める活動、大学と新しい分野での研究協力を進める活動に取り組んでいる。機構の技術・特許により製品化された成果としては、人形峠のラドン含有土を使用した素焼きタイル「Doll―Stone」や、呼気に含まれる微量ガス成分を分析できる「ブレスマス」など、数多くある。「ブレスマス」は、医療分野での利用に向け研究が行われているほか、作物の香り分析などへの応用で、関心を示している農業関係者もいる。

さて、話は戻るが、記者は先般、本紙の加盟する文科省記者クラブの行事で「へしこ寿司」を味わう機会があった。ばってらにも似るが、独特の風味があり、なかなかの美味だ。福井県の美浜町では、マスコット「へしこちゃん」(=イラスト右、美浜町提供)が旬の味を観光客らにPRしている。若狭地方へお出かけの際は、是非一度ご賞味あれ。(石川 公一記者)


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