【シリーズ】原子力発電「支えの主役」関連産業編(2) 長井精機 高効率の要 タービンブレード 高度な切削加工技術に自信 難易度増す設計に対応 丁寧な人材育成がカギ

他の会社にはできないことを――長井精機は、常に改良され加工難易度を増すタービンブレードの製造に挑戦し続ける道を選んだ。自社の強みが一番活きる分野で勝負をかける。

原子力・火力発電所のタービンブレードは、高温・高圧の水蒸気やガスなどのエネルギーを回転運動に変換し、電気エネルギーを生み出す羽根状の重要部品。低圧翼は1メートル以上ある大型の部品だが、構造は単純である。一方で、高圧翼は部品としては小さいが、全体の発電効率に大きく影響する。そのため、効率を少しでも上げようと同じ用途のタービンを作るにも頻繁に設計が変わり、常に工夫が求められる。

現在同社で作られる製品の95%以上が中圧・高圧翼のタービンブレードである。柏崎刈羽原子力発電所のうち、日立製タービンを使用している4、5、6号機の高圧段ブレードを同社が担当。これを手始めに、最近では東通発電所1号機、浜岡発電所5号機、志賀発電所2号機の高圧翼も手がけた。

長井精機は1950年、群馬県高崎市に設立。歯車などの機械部品製作からスタートし、特殊刃切盤などを製造。60年、石川島芝浦タービンからの受注により、タービンブレードの生産を開始する。80年代後半よりタービンに特化した生産方針とし、以来、人々が豊かな暮らしをするために欠かせない発電機の製造に貢献していくという使命のもと、躍進を続けている。

競合するブレード生産工場は同業者ばかりでなく、顧客である重電メーカー社内のブレード工場の場合もある。重電メーカーは優秀な設計者を擁しているが、実際に削り出して製品にする力は必ずしも強いとは限らない。形状の難しい高圧翼を設計したものの、社内でも取引のある会社でも製作できず、どこに行っても断られてきたという設計のタービンブレードを同社が担当したこともある。製品のほぼ全てのシェアを大手メーカー1社から請け負うタービン工場も多いが、同社は条件さえ合えばどの会社とも分け隔てなく取引をするというスタンスをとってきた。三菱重工業、川崎重工業、東芝、荏原製作所、新日本造機、三井造船など、多くのメーカーとの取引がある。

常に高度な技量を求められる仕事を受注し続けるのは大変だが、工夫してやり遂げることで同社の技術力が向上し、加工可能な製品の幅を広げている。こうした環境の中、社員は知恵を振り絞って新しいものを作り続けている。同社は「今まで派遣社員を使ったことはなく、今後も使う予定がない」(長井利尚・取締役経営企画部長=写真)と語る。社員を育成するには時間も手間もコストもかかる。数年かけて技術・基礎を身につけてもらい、その後に自分で応用的なものに取り組んでもらう。同社は業界向け製品を扱う会社なので一般的な知名度はあまりないが、物心両面で豊かな社会の進歩発展に貢献していくという理念に共鳴でき、国際感覚を持ち合わせた人材を採用し続けることにより、会社全体のレベルアップにつなげている。

近年では韓国の斗山重工業との取引を開始するなど、海外からの受注も増えている。品質的には世界最高水準との自負があり、コストとの高次元での両立をめざしている。同社の扱うタービンは小型なので輸送費を心配する必要もない。また航空機部品製造への参入も検討しており、発電用タービンブレードで培ってきたノウハウと相互にフィードバックさせながら、切削加工技術を活かしていくことをめざしている。    (特別取材班)


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