【2009年回顧】 国内外で政権交替の1年 原子力を「切り札」に

早いもので、本紙も今号をもって、本年納刊となった。来年も、よりインパクトが大きく、付加価値の高い紙面作りに努めて参るので、どうか忌憚のないご意見等いただければ幸いである。

さて、今年は「丑年」。牛といえば、歩みののろい動物の代表格とされるが、原子力にあっては、この1年も慌しかったのではないだろうか。

国内での大きな動きといえば、やはり、8月の総選挙で、民主党が過半数を大幅に上回る議席を獲得し、鳩山代表を首班とする新政権が発足したことがまずあげられよう。

新政権の、打ち出した「20年までに温暖化ガスを25%削減」との目標実現に向けては、原子力発電を「切り札」と位置付け、着実に推進していくことが求められる。また、資源に乏しいわが国では、今後とも安定性、経済性、環境保全の同時達成を目指したエネルギー政策を進めることが重要であり、その要となる原子力の円滑な推進に向け、引き続き、確固たる国家戦略と政策枠組の確立に取り組むことを強く期待したい。

振り返ると、特に、今年は、一昨年の新潟県中越沖地震の知見を踏まえた耐震安全性評価で進展があった。震災により全基停止していた東京電力柏崎刈羽原子力発電所では、各号機ごとに耐震安全性、設備健全性の確認が着実に進められ、現在、6、7号機が発電を再開し、いずれも本格運転入りは間もない状況だ。残る1〜5号機も早期の復旧が待たれるところだ。

その他の原子力施設においても、新耐震指針に基づく安全確認(バックチェック)が事業者、行政庁により加速的に行われている。地震関連の分野では、新たな知見の蓄積が進みつつあり、最新の科学的・技術的知見の継続的な収集および評価への反映の仕組みを整備し、効果的に運用していくことが必要だ。

また、本年初頭、新検査制度が、05年11月の検討開始より約2年越しで施行された。今後、新制度の運用本格化に当たっては、施設や設備のハード面に加え、保安活動の確認など、品質保証の考え方も拡充し、事業者の保守管理体制充実に向けた取組の一層の強化が求められる。さらに、新検査制度の下、敦賀1号機を始め、運転開始後40年を越えるプラントも増加していく状況で、高経年化技術評価の充実も今後重要となろう。

原子力を安定的かつ持続的なエネルギー供給源として利用していくため、安全確保が最も重要であるのは言うまでもない。今年は、JCO臨界事故から10年を迎えた。原子力研究・開発利用に関わる一人一人、事故の教訓を忘れることなく、安全性をより確かなものにしていくことが肝要だ。

原子力発電のエネルギー安全保障や地球温暖化対策への有効性は論を待たず、資源に乏しいわが国において、核燃料サイクルを含む原子力利用は、この先も後退することはないだろう。

翻って、国内原子力発電設備利用率は、柏崎刈羽発電所の長期停止の影響などを受け60%(08年度)と低迷しており、わが国の原子力発電は、その潜在能力を十分に発揮しているとは言えない状況だ。今年は、中部電力浜岡1、2号機が運転を終了する一方、九州電力川内3号機増設が新規に計画された。既設炉の高度利用とともに、リプレース需要にも円滑に対応していくことが必要だ。

さらに、核燃料サイクルについても、九州電力玄海3号機での本格プルサーマル発電開始といった進展もあったものの、今年見込まれていた「もんじゅ」の運転再開、六ヶ所再処理工場の本格稼働はいずれも先送りとなってしまった。また、高レベル放射性廃棄物処分事業も、立地点選定では、まったく進展がなかった。これら山積みする課題に対し、関係者一体となって、引き続き、積極的に取り組んでいくことが求められよう。

一方、国際社会を見渡すと、昨今、ドイツでは新政権発足による脱原子力見直しの動き、スウェーデンでは脱原子力政策の撤廃、既設炉の新規炉へのリプレース計画を盛り込んだ政策合意文書が発表されたほか、原子力発電が既に全廃されたイタリアでも原子力凍結解除の法案が成立した。

米国においては、オバマ新政権下で、ブッシュ元政権での積極的推進に比べ、原子力のプライオリティはやや低下の傾向にあるものの、新規建設計画の進展、これを支援する電力会社への税制措置など、「原子力ルネサンス」の勢いは止まらない。

このような欧米諸国における原子力開発の再開、最近、原子力開発計画が具体化したベトナム他、アジア諸国を中心とする新興国の台頭など、世界的な原子力利用拡大の機運がこの1年、より顕著になった。一方で、北朝鮮の2回目の核実験といった核不拡散体制を揺るがす出来事もあった。

来年は「寅年」。「草食系」の牛から「肉食系」の虎へ。国際動向を見据え、世界をリードするわが国の原子力技術を、「強い競争力を持つ環境技術の中核」として、「攻めの姿勢」で海外展開していくことが期待されよう。


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