【「信頼」こそ安心に 唐木氏講演 利益情報の伝達も】

原産協会の原子力システム研究懇話会でこのほど、日本学術会議副会長の唐木英明・東京大学名誉教授(農学博士=写真)が、「原発はなぜ嫌われるのか?食品の例から不安の原因を考える」と題して講演した。同氏は、この両者は同じような理由で不安視されており、「だからこそ対策にも共通性が見出せる」と指摘する。

講演では、例えば、「食品の世界で消費者が何に不安を感じるのか」とアンケート調査を行うと、残留農薬、食品添加物、中国産食品が常に上位を占めると言う。そこで唐木氏は考えなければならないこととして3点、@これらは危険なのかA消費者はどの程度強い不安感を持っているのかBなぜ嫌われているのか――を挙げる。

もちろん、厳しい管理によりこれらの安全性は守られている。そして、アンケートには90%の消費者が「残留農薬は不安」と答えるにもかかわらず、実際に無農薬野菜を購入する消費者は1%もいない、と同氏は指摘する。

危険性がないにもかかわらず、「不安、嫌い」と答える理由を同氏は、@誤解を招く情報が氾濫していることA消費者の利益が見えないことB企業や行政への不信――があるからだとする。

古代ギリシャの数学者アルキメデスの言葉を紹介し、「人は危険を逃れるために行う判断は一瞬で行う必要がある。だから、直感的な判断(ヒューリスティック)をする」と。同氏は「専門家も自分の専門以外のことでは、他に従う」と指摘する。

同氏はまた、2007年6月に掲載された朝日新聞の「世論調査に見る『世論』って」の記事を紹介し、同社世論調査に「直感で答える」と回答したのが20代男性72%、30代女性80%、平均で60%、60代以上の人は40%との結果を示した。「誰に誘導されているのか?」との問いには、「マスメディア」50%、「政治家」20%との回答が返ってきており、同氏はこの結果を「どこかで聞いた話、見た記事などを思い出して、本人は直感と思っている」と分析している。日本の犯罪状況は改善されているにも関わらず、犯罪情勢は悪化し厳罰化の流れがあるかのような印象を抱かれるのは、マスコミの発達で全国報道がなされること、記事はよく読むと冷静に書かれていても、犯罪や事故を大きく取り上げる見出しの影響の方が大きく、「危険情報は売れる」とのマスメディアの特質があるのではないか、と指摘する専門家の見方も紹介した。

これらの問題を考慮した上で同氏は、「メリットが分かるよう、利益情報をいかに出すか」が必要だと強調。さらに、「人間は理性ではなく、感性で判断する!」もので、〈安心=安全+信頼〉であり、「安全であると信じられること」が最も重要だと結論付けている。


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