【国家成長戦略 「原子力」を見据える】原子力委員長代理 鈴木達治郎氏に聞くCO削減コストのデータ整備も 原子力比率拡大は議論を

―原子力委員会も5月をめどに「成長に向けた原子力政策」をまとめる。議論のポイントは。

鈴木 新国家成長戦略の要となるグリーンイノベーションの議論で、温室効果ガス(CO)削減のために原子力発電が必要なことは誰でも知っている。しかし、残念ながら現在はCO削減コストが顕在化できていないのでエネルギー(発電)コストで計算するよりなく、原子力選択の適否を定量的に判断する「マッキンゼーのコストカーブ」のようなデータが日本にはあまり整備されていない。たとえば住宅の断熱投資をすればエネルギーコストも下がるので、数年で回収の見込みが立ちコストはマイナスになる。まず、こうした「CO削減のコストカーブ」のどこに原子力が位置するかを明確に示したい。

国際エネルギー機関(IEA)は世界で50年までにCO排出を半減する技術として、省エネにほぼ50%、原子力に6%を期待しているが、それでもその実現には現在の3、4倍の原子力発電設備が必要となり容易なことではない。それだけに、たとえば住宅の断熱投資も原子力への投資も費用対効果に大差ないことが分かれば、原子力投資への理解も高まると期待される。

温暖化対策でCO削減コスト・国民負担の大きさばかりを強調するのではなく、リターン効果が期待できコストの安い方策から優先していけば負担も小さく、経済成長、雇用確保にもつながるというメッセージを発信、その選択肢の1つとして原子力がいかに安くCOを削減できるかをアピールしていきたい。同時に、成長戦略決定には1つの政策で2つ以上の目標を達成できるような「多重目的政策」が望ましく、たとえば、オバマ大統領が打ち出した原発新設の融資保証のような資金運用の融通性や経済波及効果の大きい施策を念頭に置いている。

―鈴木さんは核燃料サイクルについては慎重論者だったと思うが、原子力政策大綱見直しに向けてどのようなスタンスで臨むのか。

鈴木 原子力政策大綱が策定された05年に比べ国際情勢が大きく変化、国内における温暖化対策議論も高まりを見せ、また何より民主党への政権交代があったことから、やはり5年に一度のレビューは必要だと思う。これまで原子力をめぐる議論で私が一貫して主張してきた基本は、原子力発電をいかに守るか、つまり「順調に稼働してエネルギーを供給する」ことが最も大事であり、そのために必要性の有無を仕分けし、優先順位をつけて決定すべきだと考える。核燃料サイクルは長期的視点で取り組むべきだが、それより既存の軽水炉原発の安全を守り、稼働率を向上させることが国民経済にとってもエネルギー安全保障上も、温暖化対策としても喫緊の最優先課題だ。

従って、核燃料サイクルで当面必要なのは使用済み燃料の中間貯蔵だというのが私のかねてからの考え方で、今も基本的には変わっていない。ただ、5年前の議論の時点では六ヶ所再処理工場を操業させるか否かで国民の経済的負担が大きく異なるため激論となったが、今はすでに再処理することを決め工場操業目前という現実≠ェある。そうなると、今度は今ある施設をどう動かし将来のコスト負担を軽減する仕組みが必要になる。つまり、核燃料サイクル・再処理の是非ではなく、段階ごとに必ずある次のステップの選択肢のうち、真っ先に必要なものを仕分けし、選択肢を評価したうえで、決めることが政策の課題であり、難しさだ。

―原子力政策大綱で定めた原子力比率30〜40%の引き上げは。

鈴木 原子力比率拡大の議論はあるかもしれない。その際、40%を50%にするためのリスクやコストも考慮する必要がある。稼働率を80%に上げるのはたいしたコストでなくても、寿命延長や新増設はコストが上昇するのできちっとした評価が求められる。

それだけに、「40%と50%の違い」は意外と大きいかもしれない。特定電源に50%以上依存することについても、リスクが伴う。従って50%まで上げるべきか否かは、十分議論を尽くす必要があろう。 (編集顧問 中 英昌


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