【国家成長戦略 −「原子力」を見据える】 日本原子力産業協会理事長 服部 拓也氏に聞く 「規律ある競争」世界で共有を 国家戦略仕切り役≠ヘ官房長官

―年初来5回の海外出張を通じ、UAE、ベトナムでの原子力プラント商談で、日仏が韓国、ロシアに相次いで敗退した現実をどうみるか。

服部 仏は、今われわれが原子力を新成長戦略の一角に据え国際商戦に「勝ちきる」体制を整備しようとしている条件をすでにすべて完備している。つまり、サルコジ大統領自ら率先し、電力会社もメーカーも1社体制で官民完全一体のトップセールス外交を展開、燃料供給からバックエンドまでのワンセット供給もでき、さらに新規導入国支援のため08年に「国際原子力支援機構」という組織まで立ち上げた。

しかも、UAEについては単に原子力のみでなく、ルーブル美術館の別館をアブダビの小島に建設、一大地域開発して新カルチャー圏を確立する構想までパッケージにした提案を行った。日本にはまねのできない、正に挙国一致体勢で受注戦に臨んだ。それだけに、UAEで韓国に敗退したショックは極めて大きかったものと思う。

従って、続くベトナムの第1次商談では巻き返しを期していたと思われる。ただ、ベトナムの場合は仏がかつての宗主国とはいえ、緊張する中国との国境問題に対応するにはロシアの軍事力が必要不可欠といった政治的要因が大きく、それを乗り越えてまで仏を選ぶパワーはなかったのだろう。日本も同様ながらビジネスとは別要因によるもので、ここでの勝敗は参考にならない。

一方、日本にとってはUAE案件で日立が米国(GE)と組んで中東地域の原子力プラント商談に参戦する意義は国家戦略的に大変重要だと思う。しかし時間的余裕(1年間)もなく、体制的にも不十分で、とても勝てる状況になかった。目下議論されている国を含めた「オールジャパン」体制で臨み負けたのならショックは大きいが、「オールジャパン」が未成熟な段階での勝負だった教訓とすべきだ。

―原産協会は、6月の新成長戦略への反映を狙いに「原子力産業海外展開に関する国への提言」を政府に提出するが、主旨、ポイントは。

服部 原産協会は昨年9月の民主党政権発足時に、「原子力を温暖化対策の柱としてきっちり位置づけてほしい。成長戦略としても有望であり、核不拡散問題でも技術力と実績があるので、原子力を前面に押し出し、海外展開と戦略的に結びつければ世界をリードできる」旨を提言した。ただ、現実にこれから海外展開する際の課題、具体策まで議論が詰まっていなかったので、新規に委員会を設置し、UAE、ベトナムでの敗因分析、今後必要なことをベースにしながら提言としてまとめたものだ。

その中身の1つは「海外展開の大義名分」で、これは特にリスクだけ大きくリターンのない電力会社のようなところに必要だ。また直嶋経産相も「原子力先進国としての日本の使命」と表現したが、50年前を考えれば何もベースがないところに英米が支援してくれたからこそ今日の日本があり、原子力の恩恵を享受している。従って、アジア地域を中心にこれから新規導入しようとしている国を支援するのはわれわれの使命だ。そのうえで具体策として、総理が先頭に立ったトップ外交、戦略本部の設置、人材育成ネットワークの構築、二国間原子力協力協定の率先推進等、海外展開を成功裏に進めるために様々な取組みを整理した。大事なことは、これを見て各府省・大臣が自らの課題として認識してもらうことにあり、その仕切り役は官房長官に期待したい。

―4月20〜22日に松江市で第43回原産年次大会が開かれる。どういう視点が大事か。

服部 これまで掛け声だった原子力ルネサンスも夢から現実≠フフェーズに入りつつある。その中で今回の韓国、ロシアの商談成約成功例に見るまでもなく、原子力ビジネスは今や紛れもなく国家間の総合力の競争となり、日本はフェアプレーで臨むが世界の大勢は「何でもあり」になってきている。しかし、ここで「売らんかな!」で原子力の受注合戦をエスカレートし始めると、安全確保の面でも将来に禍根を残し、原子力は自分で自分の首を絞めることになろう。この点は仏、米ともに認識しており、私も「規律ある競争」を世界が共有すべきだと主張したい。原子力を利用・推進する責任の重さをわれわれはもっと自覚しないといけないし、新興国にもそれをよく理解してもらわなければならない。今回の原産年次大会の場でそうした議論になることは期待薄だろうが、そうした視点から原子力を見据えるきっかけになればと願っている。 (編集顧問 中 英昌


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