【国家成長戦略 「原子力」を見据える】三井物産 専務執行役員 大前 孝雄氏に聞く 「オールジャパン」に柔軟性 プロジェクト・ストラクチャリングがカギ

―商社ビジネスと原子力のかかわりは。

大前 三井物産では1960年代から米GEと東芝の代理店の立場で原子力にかかわり、国内初の商業用軽水炉である敦賀1号を皮切りに第3世代炉であるABWRを含めこれまで11基の原発建設、27基の保全に携わってきた。プラントおよび燃料両分野の重要なビジネスであり、今後さらに温暖化対策やエネルギーセキュリティー等の観点から国内外で重要性が増すと思う。

とりわけ原子力は今、国家成長戦略の柱に位置付けられ世界的に原発新設プラント受注競争が激化、「原子力の国際展開」が焦点になっているだけに、さらに大きなビジネスチャンスが広がっている。ただ、日本は原子力先進国として国際貢献が期待されているが、海外でのプラント建設・運営実績は皆無でまったく新しい開拓分野。逆に、ここにわれわれがこれまで国内で培ってきた原子力関連の知見に加え、商社ビジネスとして原子力以外の火力発電や石油精製等の海外大型プロジェクトを手掛けてきた経験を生かし、商社ならではの貢献ができる絶好の機会があると思う。

これまで海外プロジェクトには時代や状況に応じて、メーカーの代理、エネルギー・環境機器サプライヤー、事業当事者、資金調達役などさまざまな形態で参画してきただけに、そうした事業体制を構築する「プロジェクト・ストラクチャリング」機能を通じた課題解決手法をしっかりマスターしている。特に原子力ビジネスは事業規模が数千億円と巨額なうえ、相手国・企業の要求、期待も、機器の供給のみ、建設フルターンキー、燃料供給、インフラ整備、資金調達も必要といったようにさまざまで仕組みも複雑だ。

―「オールジャパン体制」における商社の役割は。

大前 インフラのシステム輸出が今後の国家成長戦略として各国間で競争が激化する中、政治主導による「オールジャパン体制」構築は時代の流れに沿っており意義が有る。ただ、相手側の要求は国や案件により実にさまざまなだけに、フレキシブルな対応を求められる。特に原子力の国際展開における「オールジャパン体制」では、まず電力会社およびメーカーが主たる役割を担うのは当然ながらチーム全体としては一律にはいかず、技術や経済性以外にさまざまな役割、機能を求められる場合もある。

その際、当社としてはチームメンバーとしての認知を受け連携しながら、出資者や融資者の視点も踏まえた独自の立場で相手側に対応していくことがチーム全体への貢献につながると考える。たとえば、原発建設では資金調達が大きな課題だが、当社は制度金融活用を含めてファイナンス手配の実績が豊富なだけに、プロジェクトの中身に立ち入りながら資金手配を行った事例も数多く、こうした立場で相手側と接することがひとつの競争力となろう。

「オールジャパン体制」では各種の専門家が集まる中で、各専門性が活きるように担当を明確にしながら、連絡を密にして効率性を求め、総合力を発揮することが大事だ。実際に三井物産は今、米国をはじめとする海外電力事業者との間で、詳細は明らかにできないが、新規原発導入に伴う課題解決のための協力・協調について協議を開始した。米国の大手電力会社といえども30年にわたる原発冬の時代のブランクが大きく影響し、資金調達、技術選定など多くの課題を抱えているだけに、相手側の立場に立って一緒に解決策を検討していくという形で、総合商社・三井物産ならでは≠ナの切り口で取り組んでいる。

―商社は海外ビジネスに歴史と伝統があるが、今後の課題、展望は。

大前 商社は、海外の地域エキスパティーズに優れ、ビジネスや人材の現地化も進み世界的ネットワークも構築している。しかし、原子力に限らないがビジネスの国際展開においては、複雑、高度化しているプロジェクト・ストラクチャリングを手中に収める必要がある。人材育成は一朝一夕にできるものではなく、若手に実ビジネスを通して可能な限り多様、多彩なノウハウ、経験を身につけさせたい。また、商社の目線で提案するビジネスモデルは意外に新鮮に受け止められるケースも他分野では多いので、原子力でも現地で顕在化していないニーズを掘り起こし提案型の新ビジネス創造につなげたい。さらに、核燃料サイクル時代を踏まえウラン権益の確保に着目、08年に南豪州で取得したが、他国でのプロジェクト参画にも鋭意取り組んでいる。(編集顧問 中 英昌


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