【日米協定の検証】 日米原子力協定の成立 経緯と今後の問題点〈第4回〉 遠藤 哲也 元原子力委員会委員長代理、元外務省科学技術担当審議官 ― 本格的な日米原子力協定 交渉と主要な論点 ―

〈交渉方針の転換〉

これまでの協議を通じて協定改定を行わずに日米双方の要請、すなわち米側にとっては核不拡散法(NNPA)に基づく規制権の拡大、日本側にとっては包括同意の導入を同時に満たすことが困難なことがはっきりしてきた。従って、今や日本側としては、協定改定を行い米国の規制権の強化は甘受するとともに包括同意を導入するか、それとも協定はそのままにして従来どおりの個別同意方式を継続するかを決断する必要がでてきた。

日本側としては、交渉代表が宇川氏から松田慶文・外務省科学技術審議官に交代したこともあり、協定改定方式に交渉方針の転換をはかった。この背景には、六ヶ所村再処理工場の立地手続が本格化してきたことや、協定を改訂するならば日本の原子力開発計画に好意的なレーガン政権中に行うのが得策だと考えたことなどがあげられよう。

かくして、1985年5月と7月の2回の予備交渉を経て、11月から代表レベルの第13回目の協議が開始され、その後、両国間で事務レベルも含めて精力的に交渉が行われ、特に1986年に入ってからは、ほぼ毎月といったペースで折衝が続けられた。その結果、1987年1月17日、日米双方の交渉代表レベルで実質的な合意が得られた(協定交渉フェーズll)。

〈交渉上の主要な論点〉

交渉での争点になったのは、双務性の確保とか欧州原子力共同体(ユーラトム)との対等性の確保とかいった問題もあったが、ここでは次の3点だけをとりあげる。

1、包括同意の一方的停止権の問題(包括同意の安定性の確保)

米側としては、日本に対して包括同意を認めるものの、「一定の場合」にはこれを停止できる仕組みを設けることがNNPA上必要であり、しかも協定の有効期間が30年の長期であることを考えれば、その間に何が起こるかを予測できないと主張し、「一定の場合」として核拡散の危険の著しい増大とか、国家安全保障に対する重大な脅威をあげた。

これに対し、日本側としては協定を改訂して包括同意を導入しても、それが米国のみの判断によって一方的に停止されるのでは、包括同意導入の意味がなくなる。特に国家安全保障という内容が特定しにくい理由による停止は受け入れ難いと反論した。

しかしながら、米側はこの国家安全保障という表現を盛り込まなければ、NNPA上も、また米議会との関係でも承認を得ることができないとし、日米間で激しい議論が行われた。その結果、日本側としては、この表現を認めなければ交渉妥結に至らないと判断し、止むを得ずこれを受け入れた。ただ、日本側としては包括同意の安定性を強く望んでいたので、一方的停止権の発動に対して、いくつかの歯止めを盛り込んだ。すなわち、包括同意が停止されるのは、例外的に最も極端な場合に限られ、かつかかる決定は政府の最高レベル(大統領および総理のレベル)で行われ、必要最小限の範囲と期間に限定されることなどの歯止めが盛り込まれた。

2、将来の施設を包括同意の対象とする仕組みの確立(包括同意の自動性)

日本として包括同意方式の導入について留意したもう1つの問題は、将来運転が開始される施設を、いかにして円滑に包括同意の対象とするかという点であった。この背景には、すでに述べた1977年の東海再処理交渉があった。東海再処理施設の場合、同施設が完成し、まさに運転を開始しようとした時に米国から「待った」がかかったのである。このような苦い経験をもつ日本としては、将来このような事態が生ずるのは是非とも回避したい、将来の施設を何とか自動的に包括同意の対象とする仕組みを確立したいと考えた。

一方、米側としても日本の考え方に理解を示したが、米側の関心は将来の施設にどのような保障措置が適用されるかという問題であった。

このような観点から、日米両国で検討を行った結果、日米間で予め施設の種類別(商業規模の再処理施設、プルトニウム燃料加工施設等)に適用されるべき保障措置の指針となる保障措置概念(Safeguards Concepts)を作成し、この保障措置概念に沿った保障措置が講じられる場合には、将来の施設についても自動的に包括同意の対象となるような仕組みを作ることで合意した。

3、プルトニウム輸送問題

米側は英、仏からの日本へのプルトニウムの返還輸送に対し核物質防護(PP)の観点から、一定の案件に従った航空輸送のみを包括同意の対象とし、海上輸送については従来どおり個別同意の対象とする、包括同意の対象とすることはできないと主張した。これは、1984年秋にフランスから日本へ晴新丸という船を使ってプルトニウム輸送を行った際の経験にかんがみ、輸送時間が長いこと、運搬船の護衛が大変なことなどから、航空輸送を優先させたものであった。

日米間で話合った結果、航空輸送の場合に核物質防護上守られるべき要件についてのガイドラインを予め作成し、このガイドラインに沿って行われる輸送については包括同意の対象とすることで合意をみた。しかしながら、その後、協定の米国議会での審議の過程で、プルトニウムの航空輸送の実施が事実上難しくなり、日米の合意によりプルトニウムおよびMOXの海上輸送についても一定の条件の下で包括同意化されることとなった。


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