【原子力発電「人材育成の息吹(1)】−国内編/国際編− 総論(上) 経済産業省 資源エネルギー庁原子力政策課長 三又 裕生氏に聞く オールジャパンの新会社モデルに 人材育成の「戦略的司令塔」を

―昨年9月の歴史的政権交代から1年、6月に閣議決定された新成長戦略で原子力は重要な柱の1つに位置づけられた。原子力産業政策担当課長として今の思いは。

三又 わが国が原子力発電開発に取り組んでから半世紀余りとなるが、昨年初めて本格的な政権交代で民主党政権に移行し、原子力政策はどうなるのか気にする向きも多かった。しかし、結果的には大きな流れ・方向性はぶれていないと認識している。6月に閣議決定された新成長戦略およびエネルギー基本計画改定では、エネルギー安定供給や、地球温暖化対策の観点から原子力発電を着実に推進していく基本方針が改めて確認されたことに加え、途上国等へのインフラ・システム輸出促進の文脈でも、原子力の重要性が明確に位置付けられたことは、むしろ大きな前進だと思う。

―そうした政策の一環として文科省を中心に経産省、内閣府の3府省が連携して取り組んでいる「原子力人材育成ネットワーク」構想について経産省のスタンスは。

三又 これについては、まだ議論の最中にあるとの認識でいるが、原子力人材育成についてオールジャパンで協力してしっかりした体制を構築しようという考えでは一致している。ただ私見も含め申し上げると、人材育成については官民の関係機関や企業も含め、既にさまざまなチャネルからさまざまな形で資金や人がつぎ込まれており、日本全体では相当なボリュームになるが、それぞれがバラバラに部分最適≠追い求めてきたように思われる。今ようやく「ネットワーク」という形で全体最適≠フ議論が始まったところではないか。

フランスや韓国ましてやアメリカなどに比べても、原子力人材育成の量的側面では日本は決してひけをとらないと思うが、全体最適≠フ視点が希薄である。その意味で「ネットワーク」というのは、ただ時々会議を開いて情報交換しているだけではだめであり、国としての戦略的司令塔≠ェ必要だと思う。

―「戦略的司令塔」の具体的な姿は。

三又 今後、文科省等とも議論を深めたい。ひとつのアナロジーで言えば、国の総合力を問われる原子力新規導入国でのプロジェクト受注を獲得するため、官民一体の挙国体制の司令塔として、10月下旬を目途に新会社「国際原子力開発」を設立する予定となっている。原子力プラントメーカー間の協調は困難であると言われることもあるが、産業界ともいろいろ議論し、知恵を出して今回、原子力国際展開の1つの司令塔設立にこぎつけた。一方、少子高齢化で学生数が減少していく中、大学間の競争も厳しさを増し大学同士の連携は難しいとも言われているが、人材育成面でも同様にどこかが司令塔機能を担うことは可能ではないか。経済産業省は、大学や人材育成機関から輩出される人材を雇用する側、つまりユーザー≠フ利益を代表する立場になるので、文科省や大学関係者とよく協議してあるべき枠組みを一緒に作り出していきたい。「ネットワーク」という言葉だけで何か達成したような気になり、そこで思考停止してはならない。

関係者全員が力を合わせ、今までの延長線上にないことを考えねばならない時を迎えている。

―国内だけの閉じた社会≠ゥらグローバル化時代の人材育成について。

三又 国際的視点は大事で、たとえばベトナムやマレーシアのような新規導入国の人材育成面での日本に対する期待は一段と熱を帯びてきている。同時に新規導入国ではないが、これからは中国が非常に重要になる。国内の原子力発電所大増設に合わせ、安全面も含めて相当高度なレベルの技術者が相当数、急速に必要になる。そこがどういう形になっていくかは分からないが、中国から日本の大学等で一定数受け入れて教育する流れができてくるのは自然だ。日本が教育の場となり、そこで学んだ若者が本国に戻りリーダーになり、さらに相互に競争し切磋琢磨していけば日中双方に有益かつ有意義なことだと思う。

―原子力の現場技術者や技術の継承問題はどうか。

三又 原子力人材のボリューム全体としては日本は各国に引けを取らないと思っているが、ひところに比べれば大きく落ち込んでおり、原子力分野でリーダーとなるべき人材を輩出する源となる大学の強化が必要である。大学での原子力教育の厚みが失われると、これから原子力産業が活況を呈しても人材不足に陥ってしまう。日本の多くの大学で「原子力」の名を冠した学科が消滅した時期にも、東大、東工大、京大等では原子力教育に積極的に取り組み続けてきたが、今後、それら以外の大学でも原子力分野が再活性化することを期待している。

一方、団塊の世代が定年退職する世代交代期を迎え、既存技術の継承問題が深刻さを増している。原子力発電所の建設を最後に行った時点から20年以上ブランクとなる電力会社もあり、社内でのスキルやノウハウの継承が相当手薄になっているのではないか。その立て直しは、一義的には産業界が解決していく問題だが、そのためにも国内需要だけに頼るのでは不十分であり、ベトナムをはじめとする国際展開で日本の技術・人材基盤を維持・強化できるよう政府としても側面支援したい。また、昨年、原子力産業の裾野を支えるサプライチェーンメーカーの技術開発補助金制度を創設し、さらに、先の通常国会で成立した低炭素投資促進法に基づく政策融資制度等も活用して裾野産業の設備投資などを促進することにより、人材育成・技術継承を政策的に支援していきたい。

(両課長インタビューは、編集顧問 中 英昌)


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