【論人】齊木乃里子 (株)日本総合研究所総合研究部門 マーケティング戦略クラスター 「となりの芝生から学ぼう」

今年のプロ野球シーズンも終わりを告げようとしている。シーズン中、ひいきにしているチームのことをあれこれ話すのは楽しいものだ。今年はサッカーのワールドカップも開催されており、期間中はクライアントの方との雑談の中でも、「私が監督だったら………」という声があちらこちらで聞かれた。ファン歴の長さや、競技に関する知識の深さ・広さにかかわらず、対象となるチームの長所・短所、ゲーム展開に関するコメントなど、客観的で「なるほど」と大変勉強になった。

しかし、「自分のことには気づかない」というのは世の常で、野球なりサッカーで素晴らしい分析なり戦術なりを語っていたその人が、こと自社の商品やサービスのこととなると、とたんに客観性を失い、主観的に悩みだすから不思議である。何も、スポーツの話に限ったことではない。事実、世間話で、新発売になった商品について、あるいは、新しい戦略なり事業計画を発表した企業について、話題にすることは誰しもある。そのときには持つことができていた「受け手」(=購入者、利用者)として冷静な視点は、自社のことになると、持てなくなることが多いものである。

ビジネスに必要な視点は、大きく2つある。まず1つ目は、自社の立場から、自社の長所をきちんと評価し、訴求できるという視点である。もう1つの視点は、「受け手」(=購入者、利用者)の立場から、自社を評価する(位置づける)ことである。後者は、一口にいってもなかなか難しいものである。そこで普段、クライアントの方々にお奨めしているのが、「となりの芝生から学ぶ」ということである。

多くの業界や企業で、自社の事業展開を行う際に、競合他社や、近い産業を「ベンチマーク」として取り上げ、研究するということはすでに実施されている。ただ、こういった「近い企業」を学んでも、やはりどこか「客観的」ではいられなくなることが多いらしい。「あのとき、なぜ○○選手に交代しなかったのか」という意見と同じレベルで自社を見ることができるようになるためには、普段、「あの業界は、〜だからいいよな」と思えるような、一見自社と関係がないように思える企業や業界のほうがうまくいく。

事実、ファーストリテイリング社は、当初から「ユニクロを、花王のアタックやコカコーラのようにしたい」と語っていた。また、住宅設備メーカーの経営者が、「自社のライバルはトヨタだ」という話を従業員に繰り返し語って聞かせていたという話も聞いたことがある。どちらも、「受け手にどのように見られたいのか」を端的に社内や関係者に分かってもらえる明快なメッセージである。

「どうしてウチの(ウチの産業の)○○について、わかってもらえないのか」と悩む多くの企業が、一生懸命手を尽くしているのはよくわかる。それならむしろ、「うらやましい」と思える「となりの芝生」をよく観察してみることをお奨めする。勝手気ままに、他社(他業界)のことを「あれはいい、これはだめだ」と議論しながら、「受け手」の気持ちを持ちながらで、印象に残ったこと、感心したこと、最近目についたことなどを整理して、「今、ウチでいうとそれが何にあたるのか」、「同じようにできているか」、「何が違うのか」、「ウチだったらどうする」を考えてみる。そこから見えるものは少なくないはずだ。

「エネルギーの業界は特殊だから」と思わないで欲しい。実は、化粧品業界だって、食品業界だって、そこにいる人たちも自分たちの業界が特殊だと考えているのだ。会食の席で、休憩時間の世間話で、外食チェーンやインターネット業界の話が出たら、「ウチだったらどうする」という議論をはじめてほしい。きっかけは何でもよいのだから。


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