OECD/NEA RI供給チェーンを考察 「経済構造改善が必要」

「最も広く使用されている医用アイソトープ(RI)供給チェーンの現在の経済構造は、新規の投資を促すためには適切とは言えない」――これが経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)が先月刊行した「医用アイソトープの供給――モリブデン99(Mo99)供給チェーンの経済的考察」の主要な結論だ。

ここ10年来、Mo99の製造を担う数少ない古い研究炉と精製施設の運転停止あるいは、その予想外の長期化によって、Mo99供給の信頼性が損なわれてきた。このため、NEA、およびRI供給の確保に関するNEAハイレベル・グループ(HLGMR)は今回初めて、原子炉から患者までのMo99/Tc99m供給チェーンの経済的構造と現状を独自に解析調査。持続可能な経済構造の創出に必要な選択肢を各国政府その他の重要な意思決定機関に提供することにより、Mo99供給コストに関する当事者間の理解を深め、結果として市場がより良く機能するよう貢献したいとしている。

NEAチームの報告書によると、モリブデン99とその崩壊生成物テクネチウム99m(Tc99m)の供給の信頼性は、市場、政策および技術問題への対応を改めない限り回復せず、市場形成過程の歴史的経緯が供給チェーンを経済的に持続させる妨げになっていることが判明した。

研究炉での照射料金があまりにも低く設定されているため、Mo99の製造を持続的に支える事ができず、老朽原子炉を更新するための投資も促されない。製造プロセス段階(照射済みターゲットからのMo99の抽出および精製)の商業化は歴史的に常に低価格を強いており、供給チェーンはさらに停滞。結果的に各国政府は、製造プロセスのコストをこれら施設の一般経費として不透明な形で助成してきたのである。

供給チェーンを経済的に持続可能とするためには、原子炉照射業務および精製工程業務に対する見返りを製造工程全体のコストに基づいて算定する必要がある。各国政府が原子炉への助成金を見直そうとしている現在の状況では、全コストをカバーしようとすれば市場価格を引き上げる結果になるかもしれない。しかし今回の調査結果からは、価格が上昇しても末端の医学診断コストに及ぼす影響は小さいと予測される。価格の上昇は供給チェーンを高濃縮ウランから低濃縮に移行させる開発を支え、核不拡散にも貢献するという。

従って、各国政府に第一に要請したいことは、業界を財政的に支えるという政府の役割を定め、それを明確に伝えること。一旦これが決まれば、Mo99製造の全コスト算定が可能となり資金供給することができる。

また、供給チェーン側も、供給の信頼性を確かなものとするため、予備能力確保のための経費を進んで負担しなくてはならない。不十分な資本投資環境という長期的な問題克服のためには、まず経済構造を変えることが必要なのである。


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