【原子力発電 人材育成の息吹】(5)−国内編− 原子力教育ルネサンス(3) 京都大学原子炉実験所の人材育成 ― 山名元、中島健、三澤毅の3教授に聞く ―実学を通し真の技術者へ 原子炉物理実験3000人の実績

大阪府熊取町にある京都大学原子炉実験所は1963年4月、全国大学の共同利用研究所として発足した。研究用原子炉KUR、臨界実験装置KUCA、コバルト60ガンマ線照射施設、ホットラボラトリ、熱特性実験装置、電子線線型加速器、陽子加速器(FFAG、ライナック、サイクロトロン)などを擁しており、通常の大学では取り扱いできないような核物質等を扱った実験ができる。本来は研究用の施設だが、より開かれた実験所をめざし、教育利用を進めている。

人材育成の中枢を担うのが、KUCAでの学部生・大学院生原子炉物理実験である。1975年から開始し、今年6月25日に累積受講学生数が3000名に到達した。原子力教育を希望する日本全国の12大学の学生が参加している。原子力関係の企業に就職する学生全員に対し、ここでの実験を必修としている大学もある。

KUCAでの実験のベイシックコースとアドバンスドコースは1週間のスケジュールになっており、臨界近接実験、制御棒校正実験、中性子束測定実験、運転実習などを行う。合宿形式なので、夜中まで実験の結果について討論が続くこともあり、最後には多くの学生が徹夜してレポート作成に取り組む。コースを修了した学生からは、「ハードだったが有意義な体験だった」という満足の声が多く寄せられている。

同実験所では、あくまでも日本人学生への教育を主としているが、協定を結んでいる韓国の8大学からは、毎年20名ほどの学生を受け入れている。韓国には使い勝手のいい小型炉がなく、関西空港からも近くて地の利もよい。これまでに100名以上がKUCAでの実験に参加した。また、スウェーデンのチャルマーシュ工科大学からも学生を受け入れている。外国の学生向けには、英語で講義および実験を行っている。京大出版で英語版の原子炉実験教科書を作成しているほか、これを元にこれまで英語の教科書しか存在しなかった韓国では初となる、韓国語版の原子炉教科書も今春出版した。

また、KURにおいて材料照射を行って生成物を調べたり、加速器を使用した物理実験をしたりする原子力工学応用実験も行っている。炉特性を調べる原子炉反応度測定、中性子導管を使った粒子線光学実験、重水照射設備を使った中性子場の線量測定、圧気輸送管を使ったアクチニド元素の抽出実験などのほか、電子線ライナックを使った中性子飛行時間分析、陽子加速器FFAGを使ったビーム実験も行うことができる。原子力工学系の研究者ばかりでなく、物質科学や生命医科学専攻の研究者にも利用されており、研究の広がりを作る教育をしているとも言える。現在は京都大学大学院生の利用が主だが、今後他大学の学生にも門戸を広げようとしている。

やはり、実際に原子炉を扱うことのインパクトは大きい。まずは実験を通じて面白いと感じてもらう。こうすることで興味を持って自ら研究に取り組んでいくことができる。教授陣の中にも、過去にこのコースを体験したことが今の専門へと進む決め手となった者がいる。

また、実験で原子炉を運転する際には、事前にリアリティのある説明を充分行っておくことを心がけている。スイッチやボタンを押しての操作は、現代の学生にとってゲームと同じ感覚でとらえられかねない。しかし、放射線安全に対する知識はもちろん、同実験所であっても万一トラブルを起こした場合には、15分以内に役所や警察、消防署へファックスを入れ、文部科学省へ法令報告をしたり自治体や同省への説明に出向いたりしなければならないことなども教える。現場の経験にはこうした理解も含まれる。

「京都大学はやはり学問の府であり、原子力の基礎をきちんと実学として学び、自分たちの力でいい技術を作る人を育てていきたい」と語る。同実験所はまさにそれができる場で、実学を教える装置が揃っている。原子力系の技術者になるなら、一生に1回は是非、核燃料物質や中性子を実際に扱うKUCAでの実験を経験してもらいたい、とも強調する。

同実験所での人材育成は、「日本の原子力教育の「砦」。原子力の将来のためにも、みんなが学びにくる場としてずっと存続させていきたい」と自負する。 (中村真紀子記者


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