原子力の日特集【コアリーダーに聞く】(電気事業者) 新成長戦略「原子力」と日本の覚悟 −−「政治主導・オールジャパン」で「戦国時代」へ 21世紀リーダー国の条件 電気事業連合会会長、東京電力 社長 清水正孝氏 世界の「メジャープレーヤー」へ足元固め 原燃サイクル時代へ課題解決全面支援

東京電力の清水正孝社長は6月に電気事業連合会会長に就任、日本原燃六ヶ所再処理工場操業は2年延期になったが、プルサーマルに関しては国内3基目が発電を開始し、「原子力」の真価を問われる原子燃料サイクル時代への舵を取る。また、新規導入国向け原子力国際展開の窓口としてオールジャパン体制で今月設立された新会社運営の主軸も電力会社が担う。さらに9月13日に、6年ぶりに策定した東電の新経営ビジョンで「低炭素時代をリード」と「グループの持続的成長」をキーワードに掲げた。

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─「競争力強化」から「成長」へ方向転換した東電の新経営ビジョン策定の時代認識を聞きたい。

清水 私は、経営環境の変化を好機ととらえ、より前向きな経営を進めたい、また、こうした変化に対し、単なる課題対応だけでなく、課題解決型への経営のパラダイム転換が必要だと考えている。今こそ、電気事業の足元をしっかり固め、ダイナミックに飛躍する新たな出発点に立ったとの思いでいる。

われわれ電気事業者が今、エネルギー・環境問題に向き合う上でのポイントの1つは世界レベルでの「エネルギー資源争奪戦」である。アジアを中心としたエネルギー消費の増大など、各国による資源獲得競争が今後、ますます激しさを増す中で、資源小国日本がいかにエネルギー資源を安定的かつ継続的に調達・確保していくかが、これまで以上に大きな国家的課題となる。

さらには、中国、インドなどアジア諸国を初めとする発展途上国や新興国における著しい経済発展・成長に伴いエネルギーインフラの整備、拡充が必須となることに、どう取り組んでいくかということもポイントである。

こうした状況の下で、同時に、地球温暖化問題にも応えていくためには、CO2排出量の抑制、エネルギーの効率性・省エネの追求も極めて重要となることから、環境性・経済性、そして、供給安定性を兼ね備える原子力が重要なカギを握る。これが「原子力ルネサンス」とか「原子力グローバリゼーション」といわれる時代的背景で、これからの世界規模での時代の要請だろう。こうした動きを看過することなく、原子力を主軸とした低炭素電源を日本国内だけでなく海外にも積極展開することにより、社会・環境貢献、あるいは国際貢献の役割を担い、同時に事業体として収益性を高めていきたい。

ただし、それにはまず国内で自らの足元をしっかり固めることが先決だ。解決すべき課題は多いが、今回、東京電力が策定した2020年をゴールとする新経営ビジョンでは、設備稼働率をはじめ原子力発電に関する8項目でWANO(世界原子力発電事業者協会)の指標を念頭に置き、上位4分の1以内のレベルを目指す目標を掲げた。こうした思いと取り組みにより、海外からも日本の原子力技術やオペレーションがしっかり認知され、結果として自らの「足元を固める≠アとにつながると考えている。

したがって、当社としては、国内でしっかりと足元を固めた上で、メジャープレーヤーとして世界的なレベルで日本の技術、オペレーションを国際標準にするぐらいの気概を持って「国際展開」に取り組んでいきたいと考えている。

さらに、私はWANOの理事として各国の電気事業経営トップと議論を積み重ねているが、いま世界共通の非常に大きな課題として、途上国において原子力平和利用の流れが加速することへの対応がある。つまり、原子力新規導入国のグローバル化は「核拡散リスクの拡大」と表裏一体の関係になるので、われわれは相当の覚悟を決めて臨まなければならない。特に途上国で原子力発電を開発・運用する場合、プラントを建設して終わりではなく、電気事業者としては、その後も何年、何十年にもわたり、安全・安定的な運転と管理の責任を持つことになる。この役割・責任は非常に重い。だからこそ、まずわれわれ自ら国内の原子力技術、建設、オペレーション力をしっかり固めることが重要だと認識している。

─懸案だったプルサーマルが9月までに合計3基となり、JAEAのFBR原型炉「もんじゅ」も14年ぶりに再稼働する一方、日本原燃再処理工場は18回目の延期で操業開始は2年繰り延べとなった。電力業界として最大の課題である原子燃料サイクルへの取り組みはどうか。

清水 プルサーマル、再処理およびFBR等は、いずれも原子燃料サイクルのカギだけに、原子力を安定的に運用していくためにも、電力会社としてこれまで以上にしっかり取り組み、日本原燃を全面的に支援していく。高レベル放射性廃棄物の処分地選定も含め、原子力関連の課題解決は一朝一夕には進まない。しかし、電力業界10年来の悲願だった原子燃料サイクル時代の「扉≠開けるプルサーマルは、昨年12月に九州電力玄海3号でわが国初の営業運転に入り、続いて四国電力伊方3号、さらに9月には東京電力福島第一.3号で発電を開始し、合計3基となった。引き続き、一歩一歩着実に進め、2015年までに全国16〜18基での実施を予定している。

また、六ヶ所村の再処理工場については、ガラス溶融炉のトラブルで竣工時期を2年間延期し、12年10月にすることが決まった。今回で工程変更は18回目だが、竣工までの技術的見通しはついており、日本原燃が全社を挙げて課題解決に取り組むことで、確実に竣工できると考えている。また、原子燃料サイクル事業の円滑な推進が電力の安定供給と低炭素化の実現への貢献のために極めて重要であることから、電力業界は9月に日本原燃からの4000億円の第三者割当増資要請を受け入れ、東電は約1300億円を引き受けた。今後もさまざまな課題があるかもしれないが、われわれは技術的な面でも人的な面でも徹底的に支援していく。

さらに、FBRについても「もんじゅ」が旧動燃時代にナトリウム漏れ事故で試運転発電中に運転を停止して以来、14年ぶりに試運転再開にこぎつけ、また、JAEAの理事長交代もあり新体制の第一歩を踏み出した。軽水炉サイクルに続くFBRサイクル時代をにらんだ技術開発競争に世界がしのぎを削り、21世紀を担う技術エネルギーの切り札とも位置づけられるだけに、電力業界としても人的な支援を行うとともに、FBR開発五者協議会にも積極的に協力し、研究開発競争で世界をリードし、実用化にこぎつけたい。

一方、高レベル廃棄物処分場問題については、残念ながら展望は開けていないが、2007年9月に電事連に「地層処分推進本部」を設置したほか、処分場選定の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)と共同でPR施設を設置するなど、理解活動に取り組んでいる。今後も、放射性廃棄物の発生者の立場から、国、NUMOとわれわれが三者一体となって積極的に進めていきたい。

いずれにしても電気事業は、「キャッチアップ型」から「課題解決型」時代へ移った。「低炭素社会」実現へ向けた「ゼロエミッション50」(2020年までに、原子力および再生可能エネルギー由来の電源構成比率を50%まで高める)はその象徴である。これに伴う設備投資は必ずや、国内全体の経済成長と雇用拡大につながるはずだ。

〈ベトナム第2期計画受注が「試金石」〉

─これまで「内向き」だった電力会社が、今や新規導入国向け原子力国際展開の中核となり、新会社「国際原子力開発」をオールジャパン体制で今月設立した。新会社の本質的機能は何か。

清水 政府が新成長戦略の中で原子力をインフラ輸出の柱の1つに位置付けたが、原子力開発は非常に長期にわたる大型のプロジェクトで考慮すべきリスクも多い。それだけに、国と民間(電気事業者、プラントメーカー等)を含めた関係者でリスクに向き合う際の役割分担と具体的なリスクヘッジの枠組みをしっかり議論した上で臨むことが肝心だ。したがって、今回の新会社も国の成長戦略の一環としてのインフラ輸出と完全にイコールの関係となり、「国と民間との協調システム」であるという大前提に立ち、現在、リスクヘッジの具体策作りが新会社で議論の渦中にある。

新会社におけるそれぞれの具体的な役割としては、政府は国の役割として参画、われわれ電気事業者はオペレーターとしてこれまでの実績や経験の蓄積、ノウハウを生かせる。また、メーカーには今まで何十年にもわたり、われわれと一致協力しながら培ってきたハード、ソフト両面の世界に冠たる技術力があり、これらを一体的、一元的に組み合わせられる強みがある。

ただし、重要なことは、日本のそれらの強みを相手国のニーズにどうマッチさせるかだ。一口に海外展開と言っても、UAEとベトナムではまったく違うし、これから計画が具体化してくるタイやマレーシアにしても、プラントの建設・運営主体を含め一様ではない。ベトナムの場合には政府が前面に立ち、そこにわれわれがオーナーズ・エンジニアリングとして先方のニーズにどう応えられるかが決め手になると考えている。

そうした点も踏まえ、今回の新会社を窓口にしたオールジャパンの取り組みの狙いは、当面の焦点で世界の耳目が集まるベトナム第2期計画の受注獲得にあり、日本にとって、あるいは当社を含めた電気事業者にとっても、今後の海外における原子力ビジネス展開の「試金石」になるものと考えている。つまり、わが国の原子力発電技術、継続的な建設実績、プラントの品質レベルは世界中が認めるところだが、それは日本国内の「閉じた市場」の中だけで、しかも日本独自のシステム、土壌、文化等に支えられてきた。国際市場では原子力機器設備等の輸出は日本製品が不可欠であまねく浸透しているが、プラント全体を統括して責任を持つ主契約者として原子力発電所を海外で建設した実績はない。

それだけに、まず長年の友好関係があり、民間レベルでは10年以上前から人材育成や原子力新規導入のプレFS等で密接に協力し、日本の技術あるいはわれわれ電力会社に対する信頼の高さも肌で感じているベトナムで実績をあげることが大切だと考えている。


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