【2010年回顧】世界で、リーダーシップを 「着実な進展」を省み

早いもので、弊紙も、ここに本年最終号をお届けすることとなった。読者各位、悲喜交々の1年であったことだろう。

さて、原子力界の今年1年間を振り返ってみると、国内外とも、エネルギー開発利用の点で、「着実な進展」があったといえるのではないだろうか。

まず、国内では、高速増殖原型炉「もんじゅ」が5月に、1995年のナトリウム漏えい事故で停止して以来、約14年半ぶりに試運転を再開した。事故後の原因究明、これを踏まえた改造工事、安全審査、さらには地元了解の獲得等々、関係各位の努力は、はかりしれないものがあろう。また、プルサーマル計画も進展してきた。昨年末の九州電力玄海3号機に続き、今年に入ってからは、3月に四国電力伊方3号機、10月に東京電力福島第一3号機がプルサーマル営業運転を開始した。さらに、使用済み燃料中間貯蔵施設、MOX燃料加工施設も着工し、核燃料サイクルの確立に向け、一定の進展がみられたといえよう。

また、07年7月に発生した新潟県中越沖地震で被災した東京電力の柏崎刈羽発電所では、1、6、7号機が運転を再開、5号機も試運転に入るなど、復旧作業が着実に進んできた。これをバネとして、各原子力施設の耐震安全性の強化とともに、諸外国に比べて低水準にある設備利用率の一層の改善が期待されるところだ。

翻って、国際協力では、10月に、ベトナムで計画されている原子力発電所建設に関し、日本をパートナーとすることが合意され、両国間の共同声明に盛り込まれた。これは、わが国の原子力産業界にとって、極めて喜ばしく、かつ意義深いことであり、今後、本プロジェクトを着実に実行していくために、官民一体となって協力活動を推進すべく、取り組んでいく必要がある。この他にも、カザフスタン、ヨルダンとの原子力協力協定締結をはじめ、政府間での協力文書署名など、二国間協力が進展している。また、4月に米国で開催された「核セキュリティ・サミット」では、唯一の被爆国として、核廃絶に先頭に立ってきた立場から、核テロ防止に貢献するためのイニシアティブを表明するなど、多国間協力においても、日本は表舞台に立つようになってきた。

一方で、今秋予定されていた六ヶ所再処理施設の本格稼動が、ガラス固化体製造工程の不具合などにより、2年送りとなったほか、高レベル放射性廃棄物の処分地選定も表面的にはまったく進展がなく、国内核燃料サイクル関連事業の停滞・閉塞もあった。さらに、中国電力島根発電所では、多数の点検不備が確認され、安全性に直接は影響するものではないものの、社会の信頼を著しく損ねる結果となった。原子力に携わる人々には、この機会に、もう一度原点に立ち返り、社会からの信頼を得るため、真摯な取組が求められよう。

政府が6月、「元気な日本」の復活を掲げて策定した新成長戦略に先立ち、原子力委員会は5月に、「成長に向けての原子力戦略」をとりまとめ、その中で、「原子力に対する国民の信頼感を高めていくこと」、「あらゆる面で国際対応能力を強化すること」を前提に、「原子力発電の推進」、「放射線医療の展開」、「新たな挑戦を促す環境整備」、「原子力発電の国際展開」、「持続的成長のためのプラットフォーム」をうたっている。また、経済産業省では、30年を見通した新たな「エネルギー基本計画」や、インフラ・システム輸出のグローバル競争力強化を盛り込んだ「産業構造ビジョン2010」を策定した。

それにしても、アジア諸国、特に、中国の経済成長は目覚しいものがある。国際エネルギー機関が7月に発表したところによると、中国の09年のエネルギー使用量は石油換算で22億トン超に達し、米国を抜いて世界首位になったという。さらには、温室効果ガスの排出量に至っては、中国は既に07年に、米国を抜いて世界最大の排出国となっていることからも、今後の世界のエネルギーと地球環境問題を考える上で、中国の動向が一段と大きな影響を与えつつある。

世界を見渡すと、11月に、日本を含め北東アジア全体の平和と安全に脅威を及ぼした北朝鮮による韓国砲撃事件など、いまだに戦火にまつわる報道が絶えない。しかしながら、捨てたものではない。やや横道にそれるが、記憶に新しいチリ・サンホセ鉱山落盤事故では、懸命の救助活動の末、事故からおよそ3か月後、作業員全員が奇跡的に救出されたことは、全世界に感動を与えた。救出されたある若い作業員は、「1人のリーダーがいたからではなく、みんながリーダーだった」と、地底での規律ある生活を振り返ったという。産業界からも看過できぬこの事故は、皆で話し合い、ルールを決め、それぞれが何らかのリーダーとして、役割を果たすことの大事さを、教えてくれたのではないか。

立ち戻って、わが国にあっても、「新成長戦略」が基本方針として掲げる「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」の実現を通じ、原子力科学技術の研究、開発および利用の「着実な進展」を図り、世界に対し、その強みを活かして、大いにリーダーシップを発揮してもらいたいものだ。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで