【展望】羽ばたけ世界に、日本の技術 歴史的批判に耐えてきた推進理由

著名なジャーナリストが当原産協会が毎年開催している原産年次大会で、「原子力関係者はずるい。なぜなら原子力発電を推進する際にそのメリットとして、エネルギーの安定供給、コストの安さ、準国産エネルギー、技術で生み出せるエネルギー、大気を汚染しない、二酸化炭素を排出しないなどと、その都度、歴史的に推進理由を変えてきた」と語った。確かに原子力発電の導入時期には、他電源と比較して発電コストが高かったり、国内で使用済み燃料の再処理を含めた燃料サイクル・コスト全体が高くなるとの懸念から、その賛否について議論があったことは、間違いない。

しかし、これらはいずれも原子力のまぎれもない“特質”であり“価値”であり、第3の灯とも言われるゆえんだ。ただこれに加えて、これからは日本の産業基盤の発展、新規原子力発電導入国のためにも、価格の面でも国際競争の波に洗われることは覚悟しなければならない。

〈新たな原子力政策大綱の策定に着手〉

このような中で、現行の原子力政策大綱は05年の策定から約5年を迎え、原子力委員会は、これから約1年かけて新たな大綱の策定に着手した。六ヶ所再処理工場の竣工はさらに2年延期となったが、国際化にともなう人材育成や海外受注、さらに原子力安全、核不拡散、核セキュリティへの取り組みなどについての議論を深めていく方針だ。日本が新たな時代へ踏み出す共通理念、道しるべを指し示してほしい。

〈「日の丸」輸出、ベトナムが試金石〉

昨年10月には、ベトナムを訪れた菅直人首相はグエン・タン・ズン首相と首脳会談を行い、ベトナム南東部ニン・トゥアン省に計画される原子力発電所の建設で、「日本をパートナーとする」ことで合意した。両国間の原子力協定締結交渉もすでに実質的合意に達しており、日本は電力・メーカーなど計13社の出資により、わが国の原子力発電に関わる技術・ノウハウを包括的に提案する「国際原子力開発株式会社」を設立、今後、ベトナムでの原子力発電の導入可能性調査、同国からの受注要件を満たすなど正式受注に向けた動きを加速する。

武黒一郎・国際原子力開発社長は、ベトナム側が提起している6条件(1)先進技術の提供(2)人材育成協力(3)資金面の協力(4)燃料安定供給(5)使用済み燃料・放射性廃棄物管理支援(6)原子力産業発展支援――をいかに今後具体化させていくかが課題だとし、そのためにはまず、「ベトナムのために」の一点で国、電力会社、メーカーがまとまることが重要だと強調している。2015年の着工、21年運開までの道筋を、日本の経験・強みを生かして、スケジュール通り、予算通りに取り組んでいくことを目指す。

〈日印原子力協定は新しい時代の幕開け〉

日本製プラントの国際輸出のためには、政府間の原子力協定締結などの条件環境整備が不可欠であり、いくつかの協定交渉が実を結び、また同時並行で進められている。

中でも核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核保有国となったインドに対する日印原子力協定は、日本のいままでの基本姿勢からは大きく転換するものであって、多くの課題を乗り越え、国民に十分に説明し、新たな時代を切り開く幕開けとしてほしい。

〈安全規制成熟化の象徴、東通1号の運転期間延長〉

安全規制の面でも、新しい果実が実ろうとしている。規制当局と産業界側との対話が公開の場で始まり、国際基準との整合性なども含め、科学的・合理的な規制制度のあり方を追求する成熟期を迎えつつある。

09年1月からの新検査制度に基づいて、東北電力は東通1号機(BWR、110万kW)の次回定期検査終了後の運転期間を、現行の13か月以内から16か月以内へと、3か月延長するための保安規定の変更申請を原子力安全・保安院に行なった。国による審査が通れば、同機は今年2月から6月頃までを予定する次回定期検査の終了後、長期サイクル運転に入る初のプラントになる。

〈高レベル処分地選定では知事と市町村長の意思疎通重要〉

日本の文明を支える電力供給の1つの大きな足かせともなりかねない高レベル廃棄物をめぐる地層処分場の立地問題は、残念ながら昨年も大きな進展はなく、今年に引き継がれた。文献調査の公募開始からの10年間、正式に手を挙げた首長は07年1月の高知県東洋町の田嶋裕起・前町長以来、出現していない(その後、新町長により応募撤回)。

本来なら複数の立地候補地点をさまざまな角度から調査し、より最適な地点を絞り込むことが理想だ。そのためには、各地の基礎自治体で「地域の関心の芽が育つ環境」を作り上げるため、“政治の役割”、リーダーシップが求められている。処分場の立地に関する調査を受入れるに当っての大儀、処分問題に関する国民レベルでの理解、地域のニーズに合った地域振興策などにも、心を砕くことが必要だ。

特に知事の果す役割は重要で、市町村長の意思を尊重し、十分な意思疎通を図って頂けることを期待してやまない。


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