スイス世論に再び脱原子力傾向 建て替え計画に暗雲

3月31日、スイス北部オルテンにある原子力協会の事務所に小包爆弾が届き、事務職員2名が軽傷を負うという事件が起きた。後日、イタリア過激派組織による犯行声明が発見され、原子力発電に対する抗議が目的ではなかったことが判明。しかし、1990年から10年以上、原子力モラトリアム政策を取っていた同国だけに、事件発生当初は福島第一原発事故を契機に同国民の中に原子力に対する疑念が再燃したことを疑わせた。

爆弾の届いた原子力協会は、ALPIQ社、AXPO社およびBKW社などの電力グループを代表する団体。同国の原子炉5基のうち、4基が約10年後に運開後40〜50年に達するため、これら3グループは共同計画会社を通じて、ゲスゲン、ミューレベルクおよびベツナウの各原子力発電所のうち、最終的に2サイトで代替炉を建設することを計画。08年から10年にかけて政府に計画申請書を提出していた。

しかし、福島原発事故発生の報を受けた同国のD.ロイタード環境・輸送・エネルギー・通信大臣は14日、これらの承認手続きの暫時停止と既設原子炉の安全基準を一層厳格化するための検証作業実施を決める。現地の大手大衆紙「ル・マタン」も日曜版で実施した世論調査結果を背景に、同事故を契機に国民世論が大きく反原子力に傾いたと報じている。

それによると、事故発生前の2月調査で、首都ベルン市民の51.2%がミューレベルク発電所サイトでの新規建設に賛成していたが、事故後は国民の74%が新規建設に反対と回答。原子力発電からの撤退を望む国民の割合は87%にのぼり、このうち10%は「今すぐ撤退」を希望していたという。

また、福島事故を受けて、回答者の3分の1以上が原子力に対する見解を変更。スイスで最も古いミューレベルク、ベツナウの両発電所が福島第一発電所とほぼ同時期に建設されていることから、62%がこれらの停止――ドイツで即座に古い原子炉7基の停止指示が出されたように――少なくとも安全点検のために停止させるよう求めている。

さらに、2009年の調査で73%が「原子力はスイスにとって必要な電源」としていたのが、今や「原子力なしでやっていくのは不可能」とする回答は13%。2005年の原子力法改正で新規建設モラトリアムを解除したスイスの原子力発電開発は、その後わずか6年ほどで新たな曲がり角を迎えてしまった。

ル・マタン紙によると、スイスの現政権もこうした調査結果に敏感に反応しており、連立与党・急進自由党のF.ペリ党首は「電力消費がやや増加傾向にある中で、4割を賄っていた原子力の穴を埋めるのは容易なことではない」と発言。水力やガス火力の比重を増やさざるを得ないと述べたことを伝えている。また、キリスト教民主党のC.ダーベレイ党首も、「原子力はもはや、多数派たり得ず、新たな解決方法を見つけなければなるまい」との見解を表明したという。

現段階でエネルギー省のロイタード大臣は新規建設計画の承認手続きを停止したにすぎないが、同紙ではエネルギー相が原子力の段階的な廃止を検討する可能性もあり得ると指摘。実際にそうした事態になれば、エネルギー相は実務的に粛々と脱原子力を進めていくはず、との見方を示した。


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