日本エネルギー経済研究所 福島事故後の各国対応を調査 脱原発傾向国は見直しへ

日本エネルギー経済研究所は7日、「福島第一原子力発電所事故による諸外国の原子力開発政策への影響」に関する調査報告を公表した。同事故を契機に世界各国で安全性に関する議論が巻き起こっていることから、今後、安全基準の強化とそれを満たしていくことが各国共通の重要案件となる一方、原子力に元々慎重な姿勢を取ってきた国においては、計画の見直しや慎重な姿勢をさらに強めていくことが予想されるとしている。

同研究所ではまず、国ごとの状況を踏まえ、原子力開発に関わる姿勢について主要国を(1)原子力利用・推進国(2)原子力高成長国(3)新規導入検討国(4)脱原子力傾向国――の4つに分類。世界主要国(地域)の既設原子力発電設備容量と今後2035年までに新設が予想される設備容量によるマッピング図(図1)を作成しており、その意味するところと分類は以下の通りになると説明した。

〈原子力利用推進国〉

すなわち、(1)米国、仏国、ロシア、韓国などの「原子力利用・推進国」では、エネルギー自給率向上あるいは戦略的な産業成長戦略の観点から、原子力を国内で積極的に開発推進し、海外への展開も積極的に行ってきた。こうした国では、国内での新設必要数は国により差があるものの、原子力産業を戦略的産業とする位置付けは不変だ、と同研究所は分析した。

各国の具体的な反応・政策対応としては、露・仏の首脳がそれぞれ、国内原子炉の安全性総点検をしつつ、原子力維持を宣言したことや、米国、韓国の担当省庁が低炭素化へのベストミックス、安定的な電力供給には原子力が不可欠として、教訓を学びつつ現行の推進策維持の方針を確認したことなどを挙げている。

〈原子力高成長国〉

(2)の「原子力高成長国」としては、エネルギー需要増に応じて、今後大規模な増設を必要とする国と定義しており、具体的には中国とインドを列挙。両国が需要に見合う供給力の確保という事情に基づき安全性の向上を図りつつ、進展速度が遅くなる可能性はあっても長期的に開発を促進していく方針だとしている。

事実、中国では国務院が3月16日、国内原子力施設の安全性点検が完了するまでは、現在審査中の新設計画を含む中長期的計画を見直すと発表。「2020年までに8600万kW」というハイペースな計画の実現可能性は遅くなるが長期の推進方針に変更はない。インドでも国内原子炉の安全性審査を指示する一方、環境大臣が原子力開発政策に変更なしと明言した点に言及した。

〈新規導入検討国〉

(3)の新規導入国としては、同研究所はアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、ベトナム、イタリア等の国を分類。これらの反応は様々だとしながらも、「既に具体的な建設計画が決定されている国では安全性向上を図りつつ、計画を進めていく意向が基本的に示されている」と指摘した。ただし、そうした条件に適わない国においては、原子力開発への慎重な姿勢が強まっていることが見て取れるとしている。

すなわち、前者の例であるUAEでは事故後、担当大臣が国内の電力不足が深刻であるため、2017年に初号機の運転開始を目指す計画に変更がないことを明言。地震国のトルコも、日本およびロシアと行っている原子力の導入協議に当面変更はないと述べた。ベトナムの原子力関係省庁も3月16日、メディアに対する原子力導入計画の説明会で、ニン・トゥアン省での建設計画は国が承認済みであり変更はない」との決意を表明済みだ。一方、イタリアは後者の例で、新設立地・建設に向けた手続きの1年間凍結を決定した。

〈脱原子力傾向国〉

同研究所が(4)の範疇に入れたのはドイツ、スウェーデン、英国などの脱原子力傾向国だ。ドイツでは昨年閣議決定したばかりの国内原子炉の運転延長について、メルケル首相が急遽モラトリアムを宣言。古い原子炉7基の操業が直ちに停止された。英国でも2018年の初号機運開に向けた新設プログラムが安全性審査のため一時中断されている。

これらの国ではいずれも相当な発電シェアを占める既設原子炉が運転中であり、代替電源の確保なくしては早期の脱原子力は現実的ではない。こうした事情から、同研究所では福島事故の影響により直ちに原子力利用が放棄されるような状況にはないだろうと指摘。しかし同時に、英国・スウェーデン等における新設の議論が当面余儀なくされる事も含め、一時期盛り上がりを見せた原子力利用に向けた前向きの状況は失われたと分析している。


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