国際的な安全専門家16名が声明 事故の再発防止で勧告

TMI事故発生当時、米原子力規制委員会(NRC)から派遣されて拡大を防いだH.デントン元局長など、世界でも著名な原子力安全規制の専門家16名はこのほど、福島第一原発事故を受けて原子力発電所の過酷事故に関する声明文「ネバー・アゲイン」を発表し、規制権限を有する新たな国際機関の設立など、同種の事故再発防止に向けた方策を勧告した。

原子力安全確保のために不可欠と考えられる目標について、これら16名がパリで協議した結果をまとめたもので、後日、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長に提出されている(原文と全訳文および16名のリストは原産協会ウェブサイトを参照)。

長年にわたり原子炉の研究開発や設計、安全規制に携わってきた16名はまず、TMIとチェルノブイリという二大事故について、被害の程度や主な原因、得られた教訓などを解説。その後の過酷事故防止対策として、静的安全系の開発や確率論的安全評価の改善が進み、国際安全条約を基盤とする原子力安全体制が整備されたことなどに触れた。

こうした努力により過去の物となりつつあった過酷事故がなぜ、再び福島で起きたかについては、「史上希に見る巨大地震プラス歴史的な大津波が全電源を喪失させるという、低確率事象があり得ない形で同時発生することが、福島のサイトと設計では十分考慮されていなかった」と指摘。設計が国内外の安全基準を満たしているだけで満足してしまうのではなく、行動で安全確保の努力を継続・強化していかねばならないと訴えた。

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今後の安全体制強化に向けた同声明文の主な勧告点は以下のとおり。

原子力発電所管理や規制などすべての側面で安全文化を見直すと共に、人材育成においてもこの部分の質向上に注意が必要。原子炉輸出国は受け入れ国で専門家の養成拠点等を設立すべきだ。

原子炉点検については、発生確率の低い事象の発生兆候を早期に認知する能力が一層重要となろう。すべての原子炉設計で過酷事故に対する脆弱性の評価と過酷事故管理規定の策定が必要だ。

炉心溶融に至る前に残留熱を除去するための手順や確固たる技術力、バックアップ機器などを備えるべき。福島事故のような津波を原因とする予備電源の共通モード故障を考慮すると、規制当局は既存の技術ではどの段階でこのような故障による脆弱性が露呈されるか検討すべきだろう。

今後は電源喪失後、バックアップ冷却系が長時間、機能するよう安全要求項目の改善が必要であるほか、静的安全系の装備、発電所を甚大な災害の発生可能域から離して建設することも重要だ。原子力安全関連の意思決定に関わる政府の責任についても審査すべきで、すべての国の原子力規制機関はこうした意思決定部門とは完全に独立の立場を有しなくてはならない。

また、国際的な安全体制強化のために適切な方策を特定し、実行に移す必要がある。重要なのは、どのような方策が最も効果的かという点で、拘束力のある国際安全基準等を公布できる国際規制機関のような枠組みの創設も視野に入れるべきだ。6月にIAEAが開催する閣僚級国際会議が、こうした議論の出発点となることを期待する。

このほか、新規導入計画国に対しては、国際的な安全基準をクリア可能であることを実証させるなど、新たな要求項目を策定し国際安全体制に盛り込むことが必要だ。


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