原子力学会 事態収拾に向け提言も 想定見直しリスク評価へ

日本原子力学会は5月21日、「福島第一原子力発電所事故に関する緊急シンポジウム」を都内で開催、同学会下の専門委員会@技術分析分科会A放射線影響分科会Bクリーンアップ分科会――での活動状況を報告するとともに、事態収束と今後の教訓に資するべく、提言を行うなどした。当日は、定員700名のところほぼ満席で、会場からの発言も多く、関心の高さがうかがえた。

原子力学会では、大地震発生直後より、これに伴う福島の原子力災害を、「日本の原子力開発史上、最悪のもの」と受け止め、学術・専門家集団として、社会への情報提供などを行ってきた。

技術分析分科会では、福島第一に関わる公表データをもとに、現在の原子炉の状態を推定し、事故の進捗状況の解明を進めているほか、得られた分析結果から、12項目の教訓を整理し提言した。そのうち、事故発生の引き金となった津波については、想定を見直す考えから既に専門分科会を立ち上げ、@津波単独A地震と津波の連成B他の外部事象C地震起因の火災・溢水――の4段階アプローチでリスク評価の標準化を進めている。

放射線影響分科会では、「空間線量率や放射性物質の土壌濃度等のマップを早急に作成し、住民に理解しやすい形で公開すること」などを提言し、文部科学省や福島県の公開するモニタリングデータを評価し、今回シンポジウム開催日時点の隣接する他県も対象とした線量マップを披露した。また、文科省では、空間線量率3.8マイクロシーベルト/時を学校校庭で屋外活動を制限すべき基準としているが、同分科会は、0.2〜4マイクロシーベルト/時を観測するインドの高自然放射線地域(ケララ地方)に生涯住み続けても、発がん相対リスクの増加は認められてないとする疫学調査結果を紹介した。

放射性物質による汚染の除去や環境修復について分析するクリーンアップ分科会では、@水処理対策A炉内燃料取り出しB破損燃料の処理C土壌汚染D廃棄物処理――を、発電所敷地内の課題としてあげた上、発電所敷地外への汚染拡大防止と早期収束に向け今後、技術開発課題を摘出していくこととしている。敷地外汚染地域修復に向けては、モニタリング活動の総合化・統一化を図る「環境放射線モニタリングセンター」、除染技術の開発などを行う「環境修復センター」の設置を提言し、原子力学会として積極的に協力する姿勢を示した。また、環境修復対策については、チェルノブイリ事故と比較し、放出核種、汚染濃度分布、環境特性、農業環境・様式などの相違を留意点として指摘した。

クリーンアップ分科会の活動状況で発表した諸葛宗男・東京大学公共政策大学院特任教授は、原子力事故による放射性物質の影響を整理し、放射能で汚染された災害廃棄物の処理方法・技術基準や、避難解除する場合の環境放射線の安全基準などを、法制度面の課題として指摘した。

結びに、同学会副会長の田中知・東大工学系研究科教授が、今後も多くの意見を求め、「情報発信を迅速に行う」使命を果たしていくことを強調した。


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