2034年までに5基を段階的に閉鎖 スイスが閣議決定

スイスの連邦参事会(内閣)は5月25日、今後「2050年までのエネルギー戦略」を改定し、2034年までに国内の原子力発電所すべてを段階的に閉鎖していく方針を固めた。福島事故後、ドイツに次いで脱原子力政策への回帰を決定したもので、既存の原子炉5基が約50年の運転期間を終え次第、順次閉鎖していく考え。この閣議決定は今後、国会審議に掛けられる予定で、今月中に最終的な判断が下る見通しだ。

今回の決定について参事会の7名は、原子力開発利用に伴う様々なリスクと複数の電力供給オプションを検討し、新たな安全基準の導入やそれに伴う改修、賠償責任の再評価などで財政負担が増大する点も考慮したと説明。古い3基のみ一足先に早期閉鎖、あるいは5基すべてを運開後50年を待たずに閉鎖するオプションも検討したとしている。

また、こうした方向へのエネルギー戦略改定において、参事会は@エネルギーの効率化と省エネA水力その他の再生可能エネルギーのシェア拡大、および必要であれば電熱併給設備とガス・コンバインド・サイクル発電所も活用B一時的な電力輸入――などを優先事項として、発電量の不足を補っていく方針。

参事会としては、原子力によってスイスがこれまでに享受してきた確実な電力供給――すなわち、信頼性と質が高く価格競争力もあり、温室効果ガスの排出抑制も可能――を保証していきたい。しかし、福島原発を破壊した地震と津波を考慮した結果、スイス国民は原子力に付随する未解決リスクの低減を欲しており、政府も開発の継続に伴い予想されるコストの増大により、再生可能エネルギーに対する価格競争力も長期的には縮減していくと判断。従って、既存の5基は安全な操業が確実と考えられる50年を目処に順次閉鎖し、新たな原子炉によるリプレースは行わないとした。

これにより、ベツナウ1号機が2019年に閉鎖された後、同2号機とミューレベルク発電所は22年に、ゲスゲンとライプシュタットの両発電所はそれぞれ29年と34年に閉鎖される。スイス連邦原子力安全検査局(ENSI)が実施した試験結果によると、これらを早期に閉鎖しなければならないような理由はなく、閉鎖までの時間的な猶予をエネルギー供給システム再構築のための新政策策定に利用することができるとしている。

現在、原子力による発電シェアは39%だが、参事会の考えでは既存のエネルギー見通しに基づき、原子力の段階的な廃止は技術的および経済的にも実行可能。国内外で実施されている技術研究や大学から産業界への技術移転、新たな技術革新事業の確立により、エネルギー供給システムの再構築が促進できるとしている。また、エネルギー効率の改善および再生可能エネルギーへの投資は中小企業にとっても有益。特に、辺境地域での風力、太陽光およびバイオマス発電には莫大な潜在力があると強調した。


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