ICRP 福島事故で特別声明 緊急時線量は変更せず

国際放射線防護委員会 2011年3月21日(=日本学術会議翻訳)

福島原子力発電所事故

国際放射線防護委員会(ICRP)は、通常は個別の国の事象に対しコメントすることはありません。しかし、我々は今回日本で起こった悲劇的な事故に鑑み、遭遇した方々へ深甚なるお見舞いの意を表することにしました。我々の気持ちは常にこれらの人々とともにあります。

我々は、引き起こされた事故の展開を常に把握し続けています。特に福島原子力発電所事故では、日本の我々の仲間、国や国際的組織、専門的学会により発せられる情報を通して把握しています。

我々は、現在の努力が制御可能な状況を早くもたらすこと、そして我々の最近の緊急時及び汚染地域における放射線防護に関する勧告が、現在および将来になされる状況の処理に役立つことを期待しています。

委員会は、緊急時および現存被ばく状況(事故による汚染で既に放射線源が存在している状況)の放射線に対する防護が十分に保障されるために、最適化と参考レベルをこれまでの勧告から変更することなしに用いることを勧告します。

緊急時に公衆の防護のために、委員会は、国の機関が、最も高い計画的な被ばく線量として20〜100ミリシーベルト(mSv)の範囲で参考レベルを設定すること(ICRP 2007年勧告、表8)をそのまま変更することなしに用いることを勧告します(*1)。

(*1) 既に30km圏内で緊急避難しておられる方については、この参考レベルを適用する必要はないと考えられますが、政府の判断に委ねることとなります(訳者注)。

放射線源が制御されても汚染地域は残ることになります。国の機関は、人々がその地域を見捨てずに住み続けるように、必要な防護措置を取るはずです。この場合に、委員会は、長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして、これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベル1mSv/年〜20mSv/年の範囲で設定すること(ICRP 2009b、48〜50節)を用いることを勧告します。

委員会は、被ばくする環境で緊急時に救助活動を行う者の重篤な確定的影響を避けるために、参考レベルを500mSv〜1000mSvの範囲に設定することをこれまでの勧告から変更することなしに用いることを勧告します。これは、この正当化のためには、計画段階と実行段階において、予想される被ばくをこのレベル以下に低減するために十分な資源を適宜用いることを意味しています。

委員会は、さらに、説明を受け承諾したボランティアによって行われる救命活動に対しては、救命に携わる者のリスクを上回る便益がある場合には、線量を制限しないこと(ICRP 2007、表8)をこれまでの勧告から変更することなしに用いることを勧告します。

我々は、この困難な状況を克服するために尽くす日本の専門家の大きな努力を見守るとともに、ソウルで近々開催される予定の会議で、我々の緊急被ばくの状況に関する勧告に関連して得られた知見を報告します。

国際防護委員会を代表して

Claire Cousins(ICRP委員長)=写真右

Christopher Clement(ICRP科学書記官)=写真左

参考文献 〈略〉

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国際放射線防護委員会
(ICRP International Commission on Radiological Protection)

放射線医学、放射線影響科学、放射線防護学等の専門家によって組織されている国際的な非政府団体。事務局はカナダの首都オタワ。

主委員会と4つの専門委員会(放射線影響、誘導限度、医療放射線防護、委員会勧告の適用)からなり、ICRPが出す勧告は国際的に権威あるものとされている。国際原子力機関(IAEA)の安全基準や世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎にされている。我が国の放射線防護の考え方や法令に取込まれている数値は、ICRPの勧告が基本となっている。

ICRPは新しい知見に基づいて被ばくの許容数値を絶えず見直しており、1934年に初めて「耐容線量」の値を発表して以降、1950年には「最大許容線量」の値を勧告し、77年に「実効線量当量限度」、90年には放射線被ばくに伴うリスクの最新データを取り入れた「実効線量限度」と放射線防護に関する基本的な考え方を勧告している。

現在、2007年勧告(パブリケーション103)が公表され、放射線防護の正当化、最適化及び線量限度の原則が維持されているほか、新たな知見に基づく被ばく状況の再整理等の変更が行われている。

2007年勧告では、公衆の1年間の被曝限度となる放射線量を平常時は1mSv未満、緊急時には20〜100mSv、緊急事故後の復旧時は1〜20mSvと定めている。

日本からは主委員会の委員として、丹羽太貫・ 京都大学名誉教授=放射線審議会会長が参加している。

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なお、放射線審議会は3月26日に、人事院総裁、厚労大臣、経産大臣からの諮問として、緊急作業時の作業員の被ばく線量限度を、これまでの100mSvから250mSvに変更することを「妥当」とする答申に当って、ICRP2007年勧告で「500mSvまたは1000mSv」が推奨されていることなどを根拠に挙げている。


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