原子力導入への意志堅く 福島事故後も進展した新規導入国の計画

昨年3月の福島原発事故は世界の原子力発電開発計画に少なからぬ影響を及ぼした。事故をきっかけに環境保護派による反原子力運動が各国で再び高まりを見せ、特にドイツ、スイス、イタリアなどのように長年にわたり脱原子力政策を取っている、あるいは過去に取っていた国では、こうした気運を覆して推進政策を進めることは難しい状況となっている。一方で、エネルギー需給などの側面から、どうしても経済成長に必要との結論に達した多くの国では、慎重に同事故の教訓を取り入れつつ開発継続、あるいは導入のための地道な努力を続けている。開発規模の面では、なんと言っても中国が群を抜く一方、ロシアが資金調達も含めて全面的に後押しする国の新設計画は、ひとたび着工が決まれば一足飛びに完成する可能性がある。ここでは福島事故後、確実に進展した新設計画の具体的な動きに注目してみた。(石井明子記者)

ロシアによる支援計画が台頭 新規導入計画国

新規に原子力導入を計画していた国々の中で、明確に計画を放棄あるいは延期を表明した国としては、天然資源に恵まれるなど喫緊に導入の必要性がないベネズエラやタイがあるほか、インドネシアでは地熱発電に変更する可能性が示唆された。また、脱原子力政策が20数年続くなど元々国民の反原子力傾向が強いイタリアでは、福島事故を契機に脱原子力に逆戻り。が、大方の国では、概ね予定通りに計画を進めている。

原子力導入への堅い意志を最も端的に示したのは【アラブ首長国連邦(UAE)】。福島事故直後の3月14日、韓国の李明博大統領を招いてブラカ原子力発電所の起工式を執り行った。同連邦によると、ペルシャ湾に面した建設サイトは地震や津波の発生確率が最も低いという理由で選定したもので、10月には首長国原子力会社(ENEC)が、建設認可取得前に追加で準備作業が行えるよう、原子力規制庁に要請。1、2号機用原子炉建屋のコンクリート打設準備を実施するとしている。

【イラン】では、ロシアの協力により建設を再開したブシェール原子力発電所が5月にようやく初臨界を達成。9月には送電を開始した。着工したのは1975年だが、79年のイラン革命により工事は一時停止。国際原子力機関による燃料の封印、ポンプの損傷に起因する燃料再装荷などとトラブルが続き、完成までの道のりは非常に長かった。

福島事故直後の原子力導入計画進展という点では【ベラルーシ】の実利主義にも驚かされる。同国は元より、チェルノブイリ事故の汚染被害が世界で最も甚大だった国。そうした被害を経験してなお、天然ガスなどの輸入依存からの脱却を目指し、同国は3月中旬、予定通り同国初の原子力発電所建設に関するロシアとの二国間協力合意文書に調印した。10月にはロシアのアトムストロイエクスポルト(ASE)社と契約を締結するなど、着工に向けた各種の基盤整備が進んでいる。

資金力が低い国での新規導入計画では、基本インフラや規制・法的な枠組整備、建設費の資金提供から完成後の出資企業募集に至るまで、全般的な支援を提供するというロシアの協力方式が計画の進展を大いに早めている。【トルコ】初となるアックユ原発計画では、ロシア方式により建設許可申請準備が継続中。ロシア企業が今年7月までにエンジニアリング調査を完了し、許可申請に必要な資料作成の基礎とすることになっている。

【バングラデシュ】では資金不足により1960年代から頓挫し続けた原子力導入が、昨年はロシアの協力により急速に具体化した。11月に両国が結んだ原子力建設に関する二国間協力協定では、燃料の供給に加えて使用済み燃料の回収、放射性廃棄物の管理・廃止措置まで支援することが明記された模様である。

【ベトナム】ではニントゥアン第1原子力発電所建設計画について、11月にロシアからの融資契約を含め、同国と複数の合意文書に調印した。同計画では実行可能性調査の結果に基づいてロシア政府の融資条件と金額が決定する取り決めだ。

片や、過去の歴史的な経緯からロシアとの協力に慎重な【ポーランド】は、ロシア以外のメーカーと協議を重ねている。昨年1月には同国の閣僚会議が原子力損害賠償法の規定や原子力庁の設置など、原子炉導入に必要な法的枠組となる原子力法改正法案を承認。福島事故後は、原子炉設計の選定や手続きなど、様々な側面で安全性を絶対的な優先事項とする条項を原子力法に盛り込んだ。11月になると建設候補地を3点に絞り込み、2013年の最終決定に向けて詳細調査とサイト特性調査を実施することになった。

【リトアニア】では、総電力需要の約7割を賄っていた唯一の原子炉を09年末に閉鎖。代替設備となるビサギナス原子力発電所を隣接区域に建設する計画を進めている。福島後の7月に日立製作所が出資を伴う優先交渉権を獲得し、12月末には契約の主な条件で双方が合意に達した。

【ヨルダン】も新規導入のため、6月に国際的な3つの原子炉メーカーから原子炉建設に関する技術提案を受け取ったと発表。福島事故の原因となった事象等を考慮した安全分析を入札パッケージに含めるよう参加企業に要請したと説明している。8月にこれら3社から財務提案書を受領しており、内閣の特別委員会が2種類の提案書を審査し、原子炉の採用設計を決定する計画である。

建設中の計画は順調に進展 【中国】

現在、世界で建設中原子炉プロジェクトの4割を占める中国でも、2020年までに7000万kWの原子力設備開発という計画を慎重に遂行していくため、福島事故直後は国務院常務会議が新設計画の承認を暫定的に停止する方針を打ち出した。

ただし、環境保護省副大臣は「事故の教訓はしっかり吸収し学ぶが、開発拡大に向けた国の基本路線に変更はない」と明言。昨年8月になると、稼働中および建設中原子炉に関する安全審査が完了したと伝えられ、新たな安全規制を盛り込んだ計画案がまとまれば、今年初めにも凍結中の新設計画への審査・承認を再開する可能性があると報じられている。

建設中の計画にはさほど大きな影響は出ておらず、福島事故後、昨年は次の建設計画が、プロジェクトの節目を迎えた。

▽5月に広東省・嶺澳U期工事2号機(CPR1000、100万kW)を送電網に接続、8月に営業運転開始

▽7月に中国初の高速炉実験炉が送電開始

▽9月に世界初のAP1000となる浙江省・三門原発建設サイトで1号機の圧力容器設置(13年夏、完成予定)

▽9月に遼寧省・紅沿河原発サイトで4号機(CPR1000、100万kW)の格納容器に丸天井設置(14年に完成予定)

▽10月に中国初の欧州加圧水型炉(EPR)となる広東省・台山原発建設サイトで1号機の格納容器に丸天井を設置

▽10月に江蘇省・田湾原発3、4号機(各ロシア型PWR、100万kW級)建設計画について土木建築契約を締結

▽12月に浙江省・秦山U期工事4号機(CP600、65万kW)を送電網に接続。

原賠法と地元の反対がネック 【インド】

インドは中国と並んで大規模な原子力開発計画を進めているが、現段階では稼働中の原子炉20基中18基までが同国の自主開発による加圧重水炉。福島事故後も7月に、ラジャスタン7、8号機計画で最初のコンクリート打設が行われている。

同事故により問題視された既存炉の安全性に関しては、原子力発電公社が津波とそれに伴う電源喪失等に対する包括的安全評価報告の中で、「所内停電に対処し、炉心を継続的に冷却する設備が備わっている」と断言。加えて、過去の地震や津波発生時に、実際に安全運転を継続した既存炉の例に言及した。

こうした結果から、シン首相率いる中央政府は2020年までに2000万kW、30年までに6000万kWという大型の開発拡大計画に引き続き取り組む覚悟だが、その大部分は国外からの軽水炉輸入で達成する予定。これらのために暫定指名したサイトでは地元住民の反原子力運動が急速に拡大しており、昨年中は開発手続きを大きく進展させることはできなかった。

さらに、国外メーカーの参入を阻んでいる最大要因である原子力損害賠償法の問題がまだ解決を見ていない。現在、欧米諸国の関連法がすべて、原子力事業者に対してのみ賠償措置を義務付けているのに対し、同国の原賠法ではメーカーも賠償責任を問われる可能性がある。このため、政府は昨年11月、メーカーの責任範囲を限定した新規則を原賠法に制定したが、その効果のほどについては疑問視する向きも多い。

それでも、大規模な原子力設備の完成に備え、ウラン燃料の確保は着々と準備中。昨年4月にカザフスタンと二国間原子力協定に調印し、ウラン生産量世界第1位の同国からウラン供給の確約を取り付けた。また、12月には、対印ウラン輸出を禁じていたオーストラリアへのロビー活動等が功を奏し、禁輸解除が決定されるに至っている。

さらなる設備拡大で新たな動き 原子力開発先進国

開発継続を決めた原子力先進国でも、昨年は新設計画の動きがあった。

原子力を代表的輸出産業とすることを再確認した【韓国】では、安全委が新設計画2件に建設許可を発給。【フィンランド】ではフェンノボイマ社が建設サイトを決定したほか、テオリスーデン・ボイマ社(TVO)も新設計画を入札段階に進める判断を下している。

【英国】では20年ぶりの新設に向けて、事前設計審査が最終段階に到達。AP1000とEPRに暫定設計承認が発給された。【米国】では政府の融資保証適用を受けたボーグル計画で建設・運転一括認可(COL)の発給が確実となり、【ロシア】でも欧州近郊の計画に建設許可が下りた。


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