日本の放射線・放射能基準−−福島第一原発事故〈番外編(16)〉 100ミリSv以下ではがん発生率上昇せず

広島・長崎の原爆生存者がガンになったデータからは、低線量放射線といわれている100ミリシーベルト(mSv)未満の被ばくでは有意なガン増加は見られていません。

ゲンくん 放射線を浴びた人はガンになるって聞いたけど、放射線をちょっとでも浴びたらガンになるの?

テツにぃ 強い放射線なら、浴びた放射線が強いほどガンになりやすくなることは広島・長崎の原爆生存者の調査から明らかになっている。けれども、弱い放射線を浴びたらガンになるのか科学的データはあまりないんだ。

ゲンくん 科学的データがないって、それ分からないってこと?

テツにぃ そう、分からないからどう考えたらいいのか論争になっている。弱い放射線、正確に言うと100mSv未満の低線量放射線について、国際放射線防護委員会(ICRP)は念のための用心から「低線量放射線でもガンになりやすさは放射線の強さに比例する」という立場を表明している。けれども、科学的データがないことはガンになる証拠がないということだし、放射線によってガンになるメカニズムから考えても低線量放射線ならばガンにはならないと主張する学者も多いんだ。

ゲンくん そうなんだ。

テツにぃ 低線量放射線を浴びてもガンになった人がいないことを示している主なデータは、広島・長崎の原爆で被爆しながら生存した人たちのものだ。広島の放射線影響研究所(RERF)では、被爆生存者の健康について50年以上にわたって追跡調査している。ゲンくん、最近、RERFのデータにもとづいて低線量放射線について書かれた本が次々に出版されているのを知っているかな。

ゲンくん 知らないよ。僕にもわかるように教えてよ。

テツにぃ 米国ミズーリ大学のラッキー名誉教授(米国アポロ計画で宇宙飛行士の健康管理に協力)は論文「電離放射線の生物学的効果――日本に贈る一視点」(出典1)の中で、RERFの清水氏らのデータから広島と長崎で被爆した人を被爆線量の大きさで7つのグループに分け、ガンによる死亡率の違いをみた(=図)。特に、10〜19mSv被爆したグループ(7430人)の低さが目に付くが、そこではガンで死亡した人の割合は1000人当り68.5人だった。図には被爆を免れた村落の住民のガンで死亡した割合(1000人当り77人)が実線で示されている。10mSv以上200mSv未満の原爆生存者2万8420人におけるガンで死亡した割合を計算してみると、1000人当り76.5人(図中の▲折れ線)となり、被爆していない北西村落住民のガンで死亡した割合77人とほぼ同じであり、少なくとも100mSv未満の低線量放射線では、発がんの影響が生じていないということなんだ。

この他にも、英国オックスフォード大学のアリソン名誉教授(物理学)、著書「放射能と理性」(出典2)の中で、RERFのプレストン氏らがまとめたデータ(100mSv未満の被爆者も含めた広島・長崎の被爆生存者8万6611人を対象、1950〜2000年までに固形ガンで死亡した1万127人)から、『100mSv未満の一回の被ばくでは無視できない発がんリスクが生じることを示す研究データは存在しない』と言っている。

原産協会・政策推進部、監修 関西大学・土田昭司)

(出典1)T. D. Luckey, “Biological Effects of Ionizing Radiation: a Perspective for Japan”, Journal of American Physicians and Surgeons Volume16 Number 2 Summer 2011(茂木弘道訳 『放射線を怖がるな! 』、日新報道、2011年 に訳文収録)
(出典2)Wade Allison, “Radiation and Reason: The Impact of Science on a Culture of Fear”, Wade Allison Publishing 2009(峯村利哉訳『放射能と理性:なぜ「100ミリシーベルト」なのか』、徳間書店、2011年)


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