民間事故調が報告書発表 産官学と立地自治体の構図で 「絶対安全神話」崩せず

財団法人「日本再建イニシアティブ」(理事長=船橋洋一・朝日新聞社元主筆)が立ち上げた「福島原発事故独立検証委員会」(委員長=北澤宏一・前科学技術振興機構理事長)は2月28日、調査・検証報告書を発表し(=写真)、同日、野田佳彦首相に手渡した。報告書では、原子力発電所の建設の歴史の中で、「産官学と原発立地自治体の原発推進派」による“ヨコとタテの原子力ムラ”が形成され、「電力会社も規制官庁も、『住民に不安と誤解』を与えかねないむき出しの安全策や予防措置を嫌った」ため、「人々の『小さな安心』を追い求めるあまりに、国民と国家の『大きな安全』をおろそかにする原発政治と原発行政が浸透した」と厳しく根源的問題を指摘し、その結果、「絶対安全神話」を生み、より安全性を高める安全規制も安全措置も採用することのできない“自縄自縛”に陥ってしまった、と分析している。

同委員会は、政府事故調や国会事故調とは別に、昨年10月から民間としての独自の立場から同事故の検証を行うことを目的に設置(=4面に委員名)。それに約30人の若手研究者やジャーナリストのワーキンググループ委員が300人以上の関係者にヒアリングし、分担して報告書の草案を取りまとめたもの。

事故当時の菅直人首相、枝野幸男官房長官、海江田万里経産相、細野豪志・首相補佐官などからも話を聞いた。東京電力にも協力依頼を行ったが公式には実現しなかったものの、ホームページなどで調査協力を呼びかけた結果、東電社員や関連会社員などからも非公式に、あるいはOBなどからも多くの協力が得られたとしている。市販や早急な英訳も計画中。

北澤委員長は記者会見で、「福島第一原子力発電所は放射能(原子炉)が過密に配置されていた。さらに使用済み燃料プールが最も危険なものだった」と指摘した。各炉が次々と冷却機能を失い、「3月14日から15日にかけて、最も大きな危機を迎えていた」と述懐し、「そのとき、首相官邸でも最大の危機を感じていた」と述べた。東京電力からの職員撤退の申し出に対して、菅首相が東電本社に乗り込み、「君たちは当事者なんだぞ。命をかけてくれ」と後に言われる“暁の訓示”を行い、撤退を許可しなかったことが、「東京電力により強い覚悟を迫り」、「菅首相の最大の功績と言えるかもしれない」とする一方、現場への過剰介入も多く、「マイクロ・マネジメントとの批判を浴びた」と指摘している。

さらに同委員長は、「最悪の日を迎えなかったことは、非常にラッキーだった。今後も迎えないですむとは限らない」と警鐘を鳴らし、福島事故の検証と今後の対策が極めて重要であることを強調した。

報告書では、「福島第一原発事故は日本の戦後の歴史の中で『国の形』のあり方をもっとも深いところで問うたとも言える」との考えを示し、「危機の核心は、政府が、危機のさなかにおいて国民の政府に対する信頼を喪失させたことだった」と強調している。

一方、報告書では「今回、最後の砦は、自衛隊だった」と述べ、放射線量の高まる原発敷地での原子炉と使用済み燃料プールへの注水作業を先導したことを高く評価している。また、07年の新潟県中越沖地震の教訓から、サイト内に免震重要棟の新設を行っていたことについて、「免震重要棟がなかった場合、敷地内の原災対応はほとんど不可能に近かっただろう」と分析している。


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