原子力の拡大案も含める メキシコの新たな国家エネルギー戦略

メキシコ政府エネルギー省のJ.エレラ大臣は1日、「2012年から26年までの国家エネルギー戦略(ENE)」を公表し、既存のラグナベルデ原子力発電所に原子炉を2基増設する案も含め、今後15年間に原子力と風力を組み合わせて総電力需要の23%を賄うとする政策を提案した。同相は昨年11月、10基の原子炉新設構想を破棄したものの、地球温暖化防止面での原子力の利点を再評価。現在のように天然ガス開発が低コストな時期から先を見据えた場合、たとえ小規模でも原子力の設備拡大はあり得るとの結論に至ったとみられている。同戦略は議会の承認を得るため、提出済みとなっている。

メキシコのエネルギー事情

世界第7位の石油輸出国であるメキシコは石油で全輸出収入の14%を得るとともに、国内の消費エネルギーについても6割を石油に、3割を天然ガスに依存。しかし近年の生産量は減少傾向にあるため、新たな石油・ガス資源の探査と開発に力を注いでいる。

2010年5月に原子力推進開発連邦電力委員会(CFE)が公表した長期投資計画では、15年間に発電設備を現在の5000万kWから8600万kWまで増強することを提案。その一部として、2028年までに10基の原子炉を新設(うち2基は同国で唯一のラグナベルデ原発に増設)する構想が含まれていた。

しかし、北部のコアウイラ州境で大規模なシェールガス田が発見され、天然ガス・パイプライン3本の建設計画が具体化したことなどから、原子力の評価は発電コストやリードタイムなどの点で低下。昨年9月にエネルギー相に就任したエレラ大臣は同年11月、原発拡大構想の廃案を明言していた。

ENEのポイント

こうした事実を背景とする今回の戦略は、エネルギー供給保証と経済効率促進のほかに、環境影響的観点からも一層持続可能な政策を推進することが基本原則。新たに加えた修正は、温室効果ガスの排出量削減のため非化石燃料による発電シェアを現在の20.3%から26年までに35%に拡大することで、以下を含む7項目の優先目標を明記した。すなわち、(1)石油と天然ガスの資源を探査し、生産量を増大する(2)非化石燃料の増強を優先してエネルギー源を多様化する(3)すべての部門でエネルギーの効率化レベルを上げる(4)エネルギー部門からの環境影響を低減する――など。

風力と原子力で約23%

(2)の実行に関して、政府は35%のうち23.4%を原子力と風力で発電する3つのシナリオを比較検討した。いずれも2026年時の総電力消費量を4796.5億kWhと想定し、設備は1億1000万kWほど。水力や太陽光などでは大幅な容量拡大は見込めないという認識の下、原子力と風力を柱とする電源構成を唯一のオプションに限定したもので、シナリオ毎に両者の配分を変えている。

原子力のシェアが最も小さいシナリオ(1)では原子炉の増設はなく、2011年現在の原子力シェアである3.9%は2.5%に縮小される。一方、18.1%と最も大きい原子力主導型シナリオでは、出力140万kWの原子炉7〜8基の増設を想定。温室効果ガス排出量や環境汚染に関わる外部コストの点でベストの選択肢だと評価している。また、これらの中間シナリオにおける原子力のシェアは6.6%。国内唯一の原子力設備であるラグナベルデ原発に出力140万kWの原子炉2基を増設するとしている。

ただし、原子炉建設には技術的な実行可能性や資金面で調査が必要なほか、建設や許認可などで長いリードタイムを要するとエネ相は指摘。ラグナベルデ原発の2基が福島第一原発と同じGE社製BWRであることも、メキシコでの原子力拡大気運を鈍らせる要因となっており、地元住民との十分な協議が必要との見方を示している。


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