3月11日を迎えて 日本原子力産業協会 会長 今井 敬 「原子力の維持」重要

東日本大震災から1年が経過しました。地震と津波によって大切なご家族や家屋などを奪われた多くの方々が、今なお不自由な避難生活を余儀なくされていることに心痛を禁じえません。

また、東京電力福島第一原子力発電所の事故は、発電所周辺の方々が営々と築いて来られた地域社会に大きな損傷を与え、人々の生活を根底から崩してしまうとともに、国内外に大きな影響を与えました。

これまで、長年にわたって原子力発電を受け入れていただいてきた方々をはじめ多くの方々が、極めて困難な状況に直面されておられることについて、原子力の平和利用を推進してきた立場の人間として、断腸の思いでこれを受け止め、心からお詫び申し上げます。

原子力産業界は、「福島の復興なくして日本の原子力の将来は無い」との考えに立ち、周辺の市町村の復興、ならびに福島第一原子力発電所の今後の廃止措置に向け、全力を傾注して参ります。

日本が今後原子力発電を継続する上では、事故の教訓を活かして、安全性を最大限に高め、「二度と同じような事故を繰り返さないこと」が大前提であることは自明です。政府、国会をはじめ様々な場で事故の検証が行われていますが、原子力産業界としても独自に分析・検討を実施し、電力各社もそれぞれの原子力発電所において既に安全対策を強化しました。さらに電力会社は、「原子力安全確保の一義的責任は事業者にあり」との認識のもと、事故の教訓を踏まえ、自らが自発的に安全性向上に取り組むことで原子力発電の安全確保を一層強化していくとともに、シビアアクシデント対策を含む原子力発電所の安全確保対策を抜本的に強化するために、新たな組織を設置し、国民の皆様からの信頼回復に努めていくとしております。

その一方で、国においては、原子力安全行政の信頼性確保と機能向上をめざし、新たな規制体制への改革が進められています。事故の教訓をもとに安全規制の有効性を高めるためには、国際原子力機関(IAEA)の安全原則などのグローバルスタンダードへの適合やリスク情報に基づく科学的・合理的な判断の追求など、規制の質の転換を図らなければなりません。また、新しい規制機関については、独立性の確保が重要です。

今回の事故によって、原子力発電の安全性に対する国民の信頼は大きく損なわれました。その結果、現状の電力需給は、基幹電源として発電電力量の約3割を担ってきた原子力発電の供給部分を、休止していた火力発電の立ち上げなどの応急的措置によって賄っている状況です。化石燃料は、価格の高騰や、中東情勢による供給不安という問題を抱えています。国民の皆様や企業等が節電の取組みを一層進めていくことは重要ですが、高度に発達したわが国の国民生活や産業を支える電力の供給は、このように現在極めて脆弱な基盤の上にあると言わざるを得ません。

また、CO排出抑制による地球温暖化防止の観点からも、化石燃料への依存は低減させていくべきです。一方、COを排出しない再生可能エネルギーとして期待されている太陽光や風力も、出来るだけ導入していくべきではありますが、原子力発電が果たしてきた基幹電源としての役割を直ちに補填することは出来ません。

このような観点から、現在定期検査により停止している原子力発電所については、安全性が確認されたものについて、国と事業者はその安全性や必要性等について丁寧に説明し、周辺地域をはじめとする国民の皆様の理解を得た上で、速やかに再稼働すべきと考えます。

今回の事故がもたらした被害の大きさや反原子力の国民感情を背景に、原子力依存度低減の方向でエネルギー政策見直しの議論が進んでいます。しかしながらエネルギーは、国民生活や産業・経済活動の基盤をなし、正に国の根幹を左右するものです。従って、エネルギー政策の決定にあたっては、長期的かつ国際的な視点に立ち、データに基づき、冷静に十分な議論を尽した上で、安全性はもとより、安定供給や、低炭素性、経済性等の多様な目標の同時達成を目指す必要があります。

原子力産業界は、エネルギーセキュリティー・環境適合性・経済性の観点から、原子力発電を維持していくことが国の将来のために重要であると確信しています。

そのためにも原子力産業界は、事故の検証結果を踏まえつつ、国内外の英知を集め、より一層の安全性の追求と福島の復興支援を行っていくとともに、できうる限りの情報を開示し、社会の議論に供していかなければ、信頼回復の道はないと、肝に銘じなければなりません。

世界は日本のエネルギー政策の動向に注目しています。我が国の持続的発展を図るため、長期的な展望とグローバルな視点に立った、冷静な国民的議論が進められることを願っております。


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