[パネル討論]

遠藤勝也・富岡町長

福島県・富岡町は東京電力の福島第二原子力発電所3、4号機が所在している。巨大地震、津波被害への世界からの支援に感謝する。

何百年もの間、津波は60センチ程度だった。今回は最大21メートルに達した。多くの生命・財産が失われた。JRの駅、下水、漁港、道路など全てが失われた。行方不明者も多数だ。事故で村民全員が避難生活を送っている。

原子力発電所の事故は我々が一番恐れていたことだ。約50年間、誇りに思って国、東京電力に一生懸命に協力してきた。

それが今回、想定の5.7メートルの3、4倍の高さの津波が襲い、初動対応が不透明で、いまだに信じられない。福島第二も福島第一と同じようにほとんど外部電源が喪失し、所長の判断で柏崎刈羽原子力発電所から機材を運び込み、難を逃れることができた。福島第二も水素爆発していたらどうなっていたか、今もってゾッとする。

いままで何が進んだのか。仮設住宅、借り上げ住宅のみだ。復旧・復興が進んでいない。

この年次大会に参加し、発表することには躊躇した。厳しいことを言わなければならないからだ。せめて自分の墓に入りたいとの声もある。死ぬまでに帰れるか。年間20mSvという一応の基準があるが、あくまでも1mSvしか住民は納得しない。

現在、区域の見直しや「非居住地帯」を設定する話が出てきているが、住民が一番心配しているのは、福島第一4号機で、震度6強の地震が襲ったら使用済み燃料プールが耐えられるかということと、東電社員、協力メーカーなどの作業員の被ばく線量が法定いっぱいになり、人材が不足してしまわないかということだ。雇用喪失も頭が痛い。

帰還については、町民一緒に帰ろうという考えだが、(放射線の強さで区域を再編する)3区域すべて一緒は難しいだろう。「仮の町」が必要で、その話が出てきてから、町民に安堵感がでてきた。国が(復旧・復興の)長期のグランドデザインを示してほしい。地域は人口が減少しており、広域運営、大同合併することも必要かもしれない。

箱ア亮三・実践まちづくり理事長

福島県・南相馬市の我々の所は、警戒区域の外縁にある町だ。住民の本音は、「心配だけど、ここに住みたいから除染するしかない」だ。

住民は、原発事故の真実を本当は知らない。どのくらい汚れてしまったのか本当は知らない。0.6μSvで大丈夫なんだろうか。会社はいつ再開するのだろうか。自分の損害をどう計れというのだろうか。この国の人権は守られているのだろうか。

本当はここにしか住めない。何で古里を離れなければならないのか。ここに住みたいから、何が何でもここに住む。

除染するしかないけど、本当に除染なんかできるのか。除染のモデルは、どこにもなく、除染の安全性も分からないことから、除染モデルを南相馬市から発信するため、一般社団法人の南相馬除染研究所を作った。代表理事には地元の産婦人科医になってもらい、私が事務局理事。除染は「環境の病を治療すること」との思いで、人の治療と同じこと、医師がいて、医療設備があって、早期治療、管理、予防処置が必要だ。除染にも地域ごとのカルテを作っている。現在、30〜50人が関わっている。

除染作業には、現地調査、計測計画を行い、安全管理をしっかりして実施し、除染報告書を作成する。これは南相馬市の財産になり、周辺地域へも貢献できる。

除染費用は国費からでて、原子力機構を通じて、スーパー・ゼネコン共同体が実施するだけでは、地元にデータもノウハウも蓄積できない。地元企業が参加できるようにすべきだ。

原子力災害からの復興には、数十年先を見通して新しい町づくりのビジョンを描き、段階を踏んで目標に向かい、新しい豊かさ、新しい生き方、「新しい当たり前」の生活を取り戻していきたい。人々が集い、子ども達が夢みる町の実現だ。

柴田徳思・東京大学名誉教授

福島事故後、放射能で汚染された福島県の田村市、楢葉町などの住民に放射線影響の話をしてきた。

低レベル放射線被ばくのリスクには、がんの発生と遺伝的影響があり、一般人の被ばく限度は年間1mSvで、10万人に5人ががんで死亡する確率だ。

放射線以外のリスクでは、年間・1000人当たり、がん死亡が2.7人、脳血管疾患死亡が1.1人、喫煙が1.6人、受動喫煙が0.3人、漁業など1次産業での死亡率が1人などとなっている。

放射線の影響では、外部被ばくと内部被ばくがある。いま福島で問題になっているのは、筋肉に溜まりやすいセシウム137で、同核種はガンマ線のほかにベータ線も出すが飛距離は約2ミリであり、筋肉がんはほとんどないことから、大きな健康影響は考えられない。自然に存在するカリウム40からの内部被ばく量は、セシウム137の3倍高い。

ただ今後、避難指示解除準備区域の値となる年間20mSvに、50年間住み続けると仮定した場合、半減期2年のセシウム134と半減期30年のセシウム137を考慮すると、合計650mSvになり、大人の年間・1000人当たりの死亡リスクは0.72人。子どもへの影響を大人の3倍とすると1.6人となり、危険な産業に従事したことと同等であり、除染が必要だ。

今後は、汚染土壌の撤去、植木などの伐採、汚染土壌の仮置き場や中間貯蔵施設の設置などが必要だ。セシウムは幸い、土壌中をあまり移動せず、地表から5センチ以内に留まっており、地下水への影響もほとんどないと考えられる。

帰宅するためには除染を進め、住民が安全性を納得できることが必要であり、そのためには住民自らが除染を行い、自ら放射線量を測定することが、安心をも生むことになるのではないか。

吉田泉・復興大臣政務官

福島県民の現在の避難状況は、半径20キロ圏の避難指示区域から約8.7万人、旧緊急時避難準備区域(解除済み)から約2.6万人、自主避難者数は約4.7万人の合計約16万人となっている。解除された旧緊急時避難準備区域へは未だ約3000人しか帰還しておらず、また自主避難者が約4.7万人もいることが、放射線の低線量不安がいかに大きいかを示しており、最大の問題がここにある。

政府は福島の復興・再生に向けて、最大限の対策を打っている。今後、住民の帰還に向けた取り組みが重要だ。

増田寛也議長

福島は、必ず復旧・復興して行かなければならない。継続的な取り組み・仕組みが必要だ。また、全国に散らばって避難している住民同士の間を、どうつないでいくか。将来の希望につながる工程表を作って行かなければならない。


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