欧州でストレステスト結果まとまる 追加で詳細審査を実施へ

福島事故以降、欧州連合(EU)加盟の原子力発電国でストレステストの実施を主導していた欧州原子力規制者グループ(ENSREG)および欧州委員会(EC)は、4月26日に結果報告書を採択するとともに、同報告書に盛り込まれた勧告や行動計画の実施を誓約する共同声明を発表した。欧州各国の原発で著しい安全性改善措置が取られているとする一方、発電所の追加視察を含め安全面でいくつかの詳細審査・分析を追加で実施するなど、数か月以内にフォローアップの準備を行うといった行動計画の策定で合意したもの。EUのG.エッティンガー・エネルギー委員が同報告書について、「詳細さと数値が不足している」と評価したと伝えられており、6月に予定されていた最終報告書の取りまとめは今秋にずれ込む見通しだ。

ストレステストは福島事故後、欧州理事会の要請により、EU域内15か国およびスイスとウクライナの全原子力発電所・140基以上における包括的な安全性とリスクを評価するため、ENSREGとECが西欧原子力規制者協会(WENRA)の策定した仕様に従って実施。主要な審査課題は(1)自然災害に起因する事象(2)安全系の喪失(3)過酷事故対策――の3点で、「安全性」と「セキュリティ」の2系統で並行的に裕度を審査した。

実施プロセスは3段階で構成されており、(1)各国の発電所事業者が2011年10月末までに安全改善に関する評価と提案で報告書を作成(2)各国の規制当局が事業者の報告書を同年12月末までに独自に審査し、最後に今年1月1日から(3)欧州多国間の規制者で構成されるピアレビュー・チームが各国の報告書審査と分析を開始していた。

ENSREG報告書はこうしたレビューの主な結論として以下の点を導きだした。まず、国により実行の度合いは異なるものの、すべての国で原子力発電所の安全性を改善する実質的な措置が取られており、福島事故の予備的教訓に照らし合わせた頑健性の改善方法、脆弱部分と強靱な部分の特定と言った点で欧州全体の統一性が取れている。

報告書はまた、すでに決定済み、あるいは検討中の安全対策として、過酷事故の発生防止およびその影響緩和のための可動機器追加調達、性能強化した固定機器の設置、過酷事故管理の改善、レスキュー・チームなどの適切な人材訓練対策を列挙。多くの場合、重要な改修は近い将来に実施されるとしている。

改善の必要な4分野

ピアレビュー結果はこのほか、欧州レベルでさらに改善すべき分野として次の4つを特定した。

(1)「自然災害と裕度の評価における欧州ガイダンスの策定」=全体として設計ベースの地震・洪水対策はENSREG仕様に沿っているが、設計事象を超える裕度およびクリフ・エッジ効果の評価が難しい場合は統一性に欠ける。よって、これらに対する欧州の評価ガイダンスをWENRAが策定するよう勧告する。

(2)「定期的な安全審査」=今回のレビューにより、定期的な安全審査が発電所の安全性と頑健性の維持・改善に効果的ツールとして貢献できることが明らかになった。このことから、ENSREGは少なくとも10年に1回の頻度で自然災害対策を再評価する必要性を強調すべきだ。

(3)「閉じ込め性能の健全性」=原発から放出される放射能から住民と環境を守る最後のバリアとして、閉じ込め機能の重要性が福島事故により改めて強調された。よって、軽水炉での1次系減圧や水素爆発の防止など、認知済みの対策を迅速に実行に移すことは各国規制当局の考慮すべきレビュー結果の1つ。

(4)「自然災害に起因する事故の防止と影響緩和」=福島事故はまた、設計ベースを超える深刻な自然災害による過酷事故を考慮した多重防護を強化すべきだということを示した。従って、そうした事故の発生防止と影響を制限する対策の実施も規制当局が考慮しなければならない点である。

ENSREGとECの合意事項

これらの勧告は、ENSREGとECの共同声明の中で実施に移すことが明記された。両者が合意したフォローアップの内容は以下のとおり。(1)航空機衝突影響調査等のため発電所の追加視察の手配(2)ENSRAG報告による勧告の実施(3)国際原子力機関が9月に採択した安全性改善のための行動計画の実施(4)原子力安全条約・臨時会合における検討結果の考慮(5)各原子力発電所の情報をウェブ上に公開――など。

ECでは今回のENSREG報告を参考資料として6月の欧州理事会に提出する予定である。


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