[新刊抄]「今、原子力研究者技術者ができること」有冨正憲 編著

昨年3月11日に東京電力・福島第一原子力発電所の事故が発生──その11日後の22日、編著者の有冨正憲・東京工業大学原子炉工学研究所長は、事故対策のアドバイザー役として内閣官房参与に就任した。

有冨教授をサポートするため、東京工業大学の有志が「プラント検討チーム」を立ち上げ、原子力安全・保安院や東京電力などから公表された資料、データを基に、事故の経過を分析し、対応について検討してきた。いまだ十分な情報が得られていないものの、一部推測も加えながら、事故の進展分析と、今後、二度とこのような炉心溶融事故を起させないためには、どのような対応を取ればよいのか、教訓として導き出すことを行ってきた結果をまとめたのが本書。

結論としては、原子炉停止直後の崩壊熱が大量に出る数時間、自らの原子炉が発生する蒸気で駆動する非常用冷却系を確実に機能させ、順調に動いている間に、炉心に冷却水を入れ、一方で炉内圧力を下げるだけでなく、大気に熱を逃すために、格納容器内に充満した蒸気を大気に放出(ベント)する「早期の格納容器ベント」の実施ができれば、大きな燃料破損は防ぐことができる、としている。

ただ、これは技術的な結論であって、本書が導き出した本当の結論は、「手順書には書いていないが、引き続き水を原子炉内に入れるために、格納容器ベントを実施する」ことを決断し、実行できる“マニュアル人間でない人材の育成”の重要性だ。しかも、その彼らには「事後は周りの人たちの心ない視線に耐えるしかない」覚悟さえ必要だ。──「このような評価しかできない周りの人たちを、私たちはここ数十年にわたって知らず知らずのうち創りだしてきていないでしょうか?」と本書は自問自答し、マニュアル化社会の危うさを克服する時期にきていると警鐘を鳴らしている。

培風館刊、2200円+税。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで