ドイツ悩ます 「2013年問題」 木口 壮一郎(ジャーナリスト) 「原子炉8基の欠落分の約9割を褐炭等で代替」

ドイツの脱原子力政策の本質は石炭褐炭火力への大胆すぎる回帰だ、と約1年前に本紙で注意を促した。これがきわめて妥当な見方であったことがわかってきた。

同国のいわゆる「エネルギー転換」政策には表と裏がある。表の金看板は、「原子力の欠けた穴を再生可能エネルギーで埋める」という、大衆受けし、国際的にも評判のよい「建前」である。裏の抜け道は、「原子力の欠けた穴を火力で埋める」という、口に出すのも憚(はばか)れる「不都合な真実」だ。表は政府が進め、裏の役割は電力会社が引き受けている。

「褐炭ルネサンス」

脱原子力政策を実行した2011年の電源構成比のデータ(以下の図を参照)をみてみよう。ドイツは同年3月から8基の原発を運転停止させ、6月に強制廃止したことから、原子力発電比率は前年の22.6%から18%まで下がった。

火力発電比率は、石炭褐炭火力43%(前年42.4%)、天然ガス火力14%(同13.6%)、石油火力1%(同1.2%)で、計約58%(同57%)となり微増した。

電源別にみれば、ドイツ最大の電源は前年に引き続き褐炭火力であり、全体の約4分の1を占めている。ドイツの新政策は、皮肉なことに褐炭火力の地位を不動のものに高めている。褐炭の55%は水分で、発熱量が石炭の3分の1しかない低品質な電源である。

すでに重荷の再生可能エネルギー

2011年の再生可能エネルギーの発電比率が合計で20%に達し、前年の16.5%から大幅に伸びた、と指摘する向きもあろう。単純な差引勘定では、見かけ上、「原子力減少分のかなりの部分を再生可能エネルギーが代替した」とも解釈できなくはない。

しかし、再生可能エネルギーは不安定かつ高価なことから、ベースロード電源にはそもそもなりえない。2011年に際立った増加をみせたのは、太陽光発電である。その総設置容量は現在、なんと約2700万kWにも達している。強制閉鎖前のドイツの原子炉全17基の総出力は約2150万kWであったから、原子力の全盛期をゆうに上回る出力規模まで成長している。

にもかかわらず、2011年の太陽光発電比率はわずか3%でしかなかった。電気料金も高くなり、家庭や産業にとってすでに重荷となっている。

急ピッチの火力大増設

ドイツ政府が2010年6月に発表した新たなエネルギー政策文書『未来のエネルギーへの道』では、今後の火力発電計画を次のように述べていた。注目点は、この中で出てくる「2013年」という節目である。

「現在建設中の火力発電所を2013年までに迅速に完成させることが、絶対に不可欠である。追加の供給安定策として、すでに建設中のガス・石炭火力発電所に加え、最大1000万kWの安定した発電設備容量を2020年までに追加建設する。(以下省略)」

2012年4月現在、ドイツの石炭褐炭火力発電所は、試運転中が3か所のサイトで合計275万kW、建設中が8か所で合計822万kW、許認可手続き中が5か所で合計548万kWである。

ドイツの電力会社は火力増設を急ピッチで進めている。これらがすべて建設されたとすると、1600万kW超の新規大電源が出現する。今年から2013年までの運転開始予定は約700万kW分である。これに天然ガス火力の2013年までの運転開始予定分、約60万kWを含めると、合計で760万kW程度になる。

昨年、強制閉鎖させられた原子炉8基の総出力は約880万kWだったので、この欠落分の9割近くを、石炭褐炭等の火力で代替することになる。あと数年したら、ドイツの電源構成がどのようになっているか、これであらかた察しがつく。「再生可能エネルギーで原子力を代替する」という理屈は、事実とまったく異なっている。

悩ましい「2013年問題」

ただし、それは火力増設がすべて順調に進んだ場合の話である。確かに、褐炭火力の稼働率は原子力並みに高く、正味運転時間は年間7000時間を越える(太陽光はせいぜい年間約900時間)。また、褐炭火力の発電コストは格安で、1kWh当たり約4ユーロセント(4円)でしかない(再生可能エネルギー電力の固定買取価格は平均18セント(18円))。

火力増設の問題は、CO排出量が著しく増加する、という点にある。1kWh当たりのCO排出量の収支は、褐炭980g、石炭790g、天然ガス640gである。これに対して、太陽光80g、原子力16g、風力8gにすぎない。これではドイツは今後、地球温暖化防止のリーダー国を標榜できなくなる。

それより深刻な課題はパブリック・アクセプタンスである。ドイツの環境保護団体は、打倒の対象を原子力から石炭褐炭火力に移している。現につい最近も、彼らの執念が実って、マインツ・ヴィースバーデン石炭火力発電所(80万kW)、ブルンスビュッテル石炭火力発電所(182万kW)が相次いで計画中止に追い込まれた。ドイツの火力増設は全体的に、必ずしも順調にいっていない。

節目の「2013年」をどのようにドイツが乗り切るか、それが次の見所となる。(終わり)


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