被災地企業自らモニタリング いわき環境システム リーダー養成講座も

特定非営利活動(NPO)法人「いわき環境システム」は、いわき市早期復興をめざして市内の各企業が中心となって自主的にモニタリングなどを行い安心・安全の確保に努め、いわき市と連携して市内の企業が事業を継続できるように活動している。同法人の酒井清理事長(=写真左)に話を聞いた。

昨年の福島原子力発電所事故以来、いわきから何人かの人が離れていってしまっている。家族でばらばらに暮らしている人もいる。

例えば「いわき市は住んでいて安全なのか」と聞かれても、放射線量の数値は分かるが、「安全」と宣言する人はいない。いわき市役所も判断を下す機関ではないため「安全と思われます」という言い方しかできない。民間に測定を依頼しても保育園や小学校が優先で時間もかかるし、予算も限られている。そこでいわき商工会議所(約3800社加盟)、商工連絡協議会(約2000社加盟)などいわきの大手企業が中心となり、自分たちで放射線やモニタリングについて勉強し、自分の会社や社員の家が安全か継続して確かめていこうということになった。まずプロジェクトを発足しようといわき市と相談したところ賛同を得られ、災害対策コールセンター、食品検査、モニタリングなどいわき市がすべき作業も受託することになった。

自分たちの会社は自分たちでモニタリングしていこうという考えから、放射線の勉強会をした後に修了証を発行し、事業所モニタリングリーダーとなって事務局が無料で貸し出す測定器を使い自社の放射線を測れるようになる講習会も始めた。ただし事業所によっては規模的に講習会やモニタリングへの参加が難しいところもあるので、測定への関与段階に応じて3つのコースから選べるようにした。

いらしていただくお客様のためにも働く自分たちのためにも、全支店の線量を測定したいという要望も多い。測定結果はいわき市の行政データとしてホームページの「iマップ」に掲載することになった。

今は食品検査について住民の関心が高い。4月頃から家庭菜園などで採れた作物の個人向け検査を市内21か所で行っており、当NPOが予約受付センターとなっている。加工食品については当NPO内にある3台の検査器(=写真左上)で測定している。現在のところ全て不検出となっているが、今後も10年、20年と検査を続けていきたい。市内のレストランの食事や弁当などもシステマティックに安全が確認できるようにしたい。

霞が関(中央官庁)ではなく、この町に住んでいるからこそわかることがある。起きてしまった事故のことより、これからも安全に暮らしていけるという確認がほしい。いわきを離れた人たちが風評被害などで今後も戻ってこないかもしれず、現時点では目に見えないが負担になっている。将来のために、いわきが安全で仕事もあり、若者にとっても魅力があるまちであることが大切だ。

いわきの復興にはまず雇用が必要。今いわきに住んでいる人の一部は、保障があるから生活できているものの仕事がない。支援はありがたいが、東京の仕事を一部いわきに回すなど、これから生活を続けていくために必要な雇用を作り出さなければならない。同情ではなく、こうした活動を理解してもらいたい。

また、体内被ばくをきちんと管理できるシステムがほしい。原子力発電所から20km圏内の住民は避難しているので、今は我々が原子力発電所から一番近くに暮らしていることになる。低線量の放射線の中で暮らしているデータとして残していきたい。

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この日は、第11回モニタリングリーダー養成研修が行われており、講義の一部と実習を見学した。いわき市放射線低減アドバイザーを務める日本原子力研究開発機構の星蔦雄氏(=右写真右端)がスライドを使い放射線の基礎知識、福島原発事故影響の現状、放射線量の測定などについて講義し、その後、機器を実際に操作して放射線の特性や測定時のポイントを理解する測定実習を行った。すでに200人以上が受講しており、いわき市内で放射線を正しく理解し、自ら安全を確認していこうとする人たちの数は着実に増えている。


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