ハルデン炉で実験を開始 ノルウェーがトリウムMOX開発

世界では現在、兵器級の余剰分離プルトニウムが260トン存在すると言われている。これを効果的に処分する方策の1つとして、ウランと混合したMOX燃料への転換と原子炉での再利用が欧州を中心に行われているが、ノルウェーでは1950年代から原子力国際共同研究に利用されてきたハルデン炉を使って、信頼性の高いプルトニウム管理や核拡散抵抗性などの面で有効と考えられる別方策の実用化研究を始めている。

ノルウェーのトール・エナジー社が率いる企業連合は、トリウムをプルトニウムと混合したMOX燃料(Th−MOX)の軽水炉使用で認可の取得が可能になるよう、今年1月からハルデン炉でトリウム燃料の照射実験計画を開始した。同社はノルウェーの再生可能エネルギー開発企業であるSCATECグループの子会社だが、企業連合には東芝傘下のウェスチングハウス社、フィンランドで原子炉を操業するフォータム社がパートナーとして出資参加。英国で余剰プルトニウム処分研究を牽引する国立原子力研究所(NNL)と、ノルウェーで原子力の基礎研究を進めるノルウェー・エネルギー技術研究所(IFE)がアドバイザーとして計画に加わっている。

また、ノルウェーは天然ガスや石油資源に恵まれているため原子力発電を行っていないが、トリウムは将来の重要な資源となる可能性があるため、その利用に関する知識を築き上げたいと考えており、政府が同国学術会議を通じて実験経費5070万クローナ(約6億6000万円)のうち4割を負担。トリウム燃料市場や関係事業の活性化を促すため、同実験計画を支援している。

Th−MOX燃料を軽水炉で燃焼する主要な利点として、同企業連合は「兵器級、原子炉燃料級に関わらずプルトニウムからのエネルギー抽出と消滅が同時に行える」点を指摘。具体的な特長として、(1)プルトニウムの効果的な消費(2)新たなプルトニウムが発生せず、マイナー・アクチニドの生成率も低い(3)核拡散抵抗性が高い(4)軽水炉用なので高速炉などの新型原子炉の認可を待つ必要がなく実用化の可能性も高い――などを挙げている。

照射実験は今年の1月から4年間を予定しており、現在、試験リグの建設と燃料ペレットの製造準備をIFEで実施中。昨年秋からすでに、資材調達などの準備作業が始められており、初回バッチのTh−MOXペレットはドイツの超ウラン元素研究所が別プロジェクトで製造したものを取り寄せて照射リグに充填、今年の11月にもハルデン炉に装荷する。半年後にはIFEで製造したペレットも追加し、2年間照射した後に照射後テストを行う計画だ。

また、第2バッチのペレットは2015年5月にハルデン炉に装荷する予定。英国NNLが製造するこのペレットには、第1バッチの製造経験と最初の1年間の照射経験による教訓が活かされる。こちらも2年間の照射期間が終わった段階で照射後テストを行うが、燃料の多くは出力上昇試験など認可手続きの際必要となる追加テストや継続照射のため、保存することになっている。

この実験計画では、Th−MOX燃料の軽水炉利用で認可を取るために必要な情報を相当量集積するのが究極的な目標だ。特定の国の許認可手続きを念頭に置いているわけではないが、規制当局の承認審査においては燃料特性を適切なコンピューター・コードで正確にモデル化することがとりわけ重要。このため、実験計画の情報は燃料特性の予測コード策定等のために活用されることになる。


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