ECがストレステストで最終報告 「追加の安全性改善が必要」

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は4日、EU域内で稼働する全商業炉の安全裕度について昨年から実施していたストレステストに関する欧州理事会および欧州議会への正式な連絡文書(最終報告書)を公開した。域内原子力発電所の安全レベルは概して高いとする一方、ほとんどすべての原子炉に対し、さらなる安全性改善に直ちに取り組むよう勧告。「加盟各国の安全当局は1基の原子炉も閉鎖するに及ばないと結論付けたが、国際原子力機関の安全基準や国際的な良慣行のすべてが全加盟国で適用されているわけではない」とし、今後、勧告の実施状況を綿密にフォローするとともに、欧州全体の原子力安全向上で法的措置を提案していくとの考えを表明した。また、追加の安全性改善策で「1基当たり3000万〜2億ユーロが必要」としており、132基の総コストは100億〜250億ユーロにのぼるとの試算結果を示している。

ECは欧州原子力規制者グループ(ENSREG)と協力して、EUに加盟する15か国の商業炉145基(うち13基は現在閉鎖)に加えて、スイスの5基、ウクライナの15基についても3段階から成るストレステストを実施した。昨年10月末までに加盟各国の事業者がまとめた報告書を、昨年末までに各国の規制当局が自己評価。その後、今年1月から4月にかけて、加盟国やIAEAの専門家で構成されるレビューチームが17か国の各原発サイトを視察して審査を行い、4月末にENSREGが報告書をまとめていた。

今回の最終報告を取りまとめたECのG.エッティンガー・エネルギー委員(=写真)は、「どの部分について我々がうまく対処しており、どの部分で改善が必要かがストレステストで明らかになった」と強調。状況としては概ね満足のいくものであるが、現状に甘んじる余地はないと指摘しており、最高の安全基準が欧州で稼働する原子炉の1つ1つで適用されるよう各国の安全当局すべてが保証していかねばならないと言明した。

福島を考慮した勧告

ECは数多くの技術的な改善点を具体的に勧告したのに加え、福島事故からの教訓をもっと考慮すべきだとしており、特に以下の例を列挙した。

(1)「地震と洪水のリスク」=地震に対する最新のリスク計算基準が54の原子炉で、また、洪水リスクについては62の原子炉で適用されていなかった。また、リスク計算は1万年という長さの時間枠に基づくべきである。

(2)「発電所内での地震対策機器の配備」=すべての原子力発電所で地震の警報および対策機器を利用可能にすべきであり、現在、欧州の121基でこれらの設置あるいは改善が必要。

(3)「格納容器のフィルター付きベント・システム」=事故時に格納容器内を安全に減圧するシステムを設置すべきであるが、32の原子炉で未だに設置されていない。

(4)「過酷事故の対策機器」=これらの機器は発電所が破壊された場合でも防護される場所、また、必要な時に素早く使用可能な場所に保管すべきだが、EU域内の81の原子炉ではそうなっていなかった。

(5)「バックアップ用緊急時制御室」=事故時に主制御室が立入不能となった場合に備えて緊急時制御室の設置が必要だが、24基の原子炉では未設置となっている。

これらに関する具体例として、ECはドイツの6基のほか、チェコのドコバニ原発、スウェーデンのオスカーシャム原発、オランダのボルセラ原発、およびウクライナの全基で地震計測機器が設置されていない点を明記した。

また、フィンランドのオルキルオト原発の2基とスウェーデンのフォルスマルク原発の2基については、何の対策も取らなければ全交流電源喪失(SBO)後30〜40分で炉心温度が上昇する可能性を指摘している。

フォローアップ活動

今後のフォローアップとしてECは、各国の規制当局に対し勧告事項の実施スケジュールを盛り込んだ国毎の行動計画を年末までに策定するよう指示。これらの計画は、今回の勧告が欧州全域で透明性のある方法で確実に実行に移されるかを確証するため、来年初頭にもピアレビューにかけられる予定だ。

勧告項目の実行状況については、各国の規制当局と連携して2014年6月までに報告書をまとめ、欧州理事会による審査を提案する方針。15年までに大部分の安全改善対策が実行に移されることを目標に、ENSREGの行動計画に準じてすべての勧告事項の実施に向けた行動が滞りなく起こされるよう加盟国に要請することになる。

ECはまた、詳しい技術的な発見事項や勧告に加えて、欧州の原子力安全に関する既存の法的枠組についても審査。遅くとも来年初頭までに原子力安全に関するEU指令の改訂版を欧州理事会と議会に提示する考え。この中では特に、安全要件や規制当局の役割と権限、透明性、監視などについて修正を提案する。

さらに、これに続く作業として、ECは原子力保険や損害賠償責任、食物や食糧品の放射線汚染許容限度に関する提案を予定。核セキュリティなど原子力に対する悪意のある行動防止活動の必要性についても、主な責任の所在を加盟国に置きつつ提案していく考えだ。

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ECのストレステスト最終報告について、仏原子力安全規制当局(ASN)は同日、「結論を導き出すためにECが取った方法論を疑問視している」とコメントした。

ASNは今回の報告書が今年の4月にECとENSREGが採択した報告書における重要な勧告のいくつかを無視しているだけでなく、策定作業において各国の安全規制当局が関与していないと批判。具体的には、1つの原子力発電所で複数の事故事象が発生した場合の留意点や、事故時に迅速な対応を取る際の外部手段の必要性などを挙げており、ENSREG報告策定時のように透明性のある手法が採用されなかったのが悔やまれると強調した。

欧州原子力産業会議連合のJ−P.ポンスレ事務局長は同テストの開始当初から、欧州の原子力産業界が一貫して自発的かつ信用ベースで協力した点に言及した。

原子力発電所で合理的な安全性を追求することは最優先事項であると改めて指摘するとともに、必要とあれば安全裕度を拡大し、設計基準を超える事象のシナリオにも対処するとの考えを表明。安全評価の結果として、欧州で稼働する原子炉の1基も閉鎖の必要性がないとされた点は重要だと訴えた。

スウェーデン放射線安全庁(SSM)も、ストレステストにより、いくつかの分野で安全性改善対策が必要であることが実証されたとする一方、「ECはEU域内のいかなる原子力発電所でも閉鎖を正当化する技術的理由は見受けられなかったと結論付けている」として歓迎の意を表明した。

ただし、全交流電源喪失に対する脆弱性が同国のフォルスマルク原発で指摘された点については、「そうした事情は発電所の建設時点ですでに分かっていた」と釈明。これらを念頭に設計した安全系により、炉心冷却系の復旧まで35分しかかからないと説明した。

炉心溶融など最悪のシナリオに関しても、放射性物質を捕捉するフィルター付きベント・システムなどの格納容器防護システムが備えられていると強調。これらはTMI事故の教訓から1980年代後半にすでに設置されていたとしている。


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