6割が原発の新設に「ノー」 リトアニアで国民投票と国会議員選挙

リトアニアで14日、日本の日立製作所が出資を伴う戦略的投資家となっているビサギナス原子力発電所建設計画の是非を問う国民投票が国会議員選挙と併せて行われ、投票者の62.74%が反対票を投じた一方、賛成派は34.01%に留まったことが選挙管理委員会の速報で明らかになった。投票率が52.5%と規定の5割を超えたことから同投票は成立したことになるが、原発建設計画を進めるための法律は6月にすでに成立しており実質的な拘束力はない。しかし、一院制の国会議員選挙で、同計画を推進していた政権与党・祖国同盟キリスト教民主党が第3党に転落。原子力に慎重な立場の労働党と社会民主党が新政権の中核を担うことが確定しており、同建設計画の今後の処遇についてどのような判断を下すかが注目されている。

リトアニアではかつて、大容量のイグナリナ原子力発電所(出力150万kWのLWGR2基)で総発電電力量の7割を賄うなど、原子力の開発利用では26年もの実績がある。事故を起こしたチェルノブイリと同型であったため、両炉とも09年までに欧州連合(EU)への加盟と引き替えに閉鎖したが、その後のエネルギー源確保ではロシアからの化石燃料輸入に大きく依存。こうした状況から脱却することを第1目標に、対露強硬派の現政権はイグナリナ原発の隣接区域でビサギナス原子力発電所(130万kW級ABWR)の建設を計画していた。

しかし今回の国民投票で、賛成意見が反対派を上回った投票区は建設サイトを擁するビサギナス地区のみ(賛成67.14%、反対32.86%)に留まった。議員選挙でも対露協調派で知られる社会民主党らが躍進するなど、同国民はロシアからのエネルギー依存脱却よりも原発事故への不安解消を重視した模様。

また、欧州全般で停滞する経済状勢を背景に、173億リタス(約5173億円)という原発建設コストが国内経済に及ぼす悪影響への懸念も投票結果に反映されたと見られている。

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なお、現地の報道によると、新政権を樹立予定の政党の原子力政策は必ずしも一致しているわけではない。

得票率19.96%で第1党となった労働党のV.ウスパスキハス党首(=写真)は地元誌のインタビューに対し「原発建設には賛成票を投じた」と回答。ただし、「エネルギーの自立のために、経済の自立を損なわないことが最も重要」とも述べており、どのように資金調達が可能かなどの点を一層明確にした上で改めて国民投票に掛けるべきだとの見解を示した。

18.45%の得票率で第2党となった社会民主党のA.ブトケビチウス党首は、「新政権も原発建設計画のプロジェクト・パートナーとの交渉は続ける」と約束。原子力には反対しないが、ビサギナス計画の経済性は疑問だとし、同計画の最終的な価値計算も含め冷静に議論を重ね、性急な判断は下さないつもりだと述べた。

また、D.グリバウスカイテ大統領(無所属)は国民投票の結果について、「投票権を持つ全国民の3分の1以下が、新しい原発のもたらす恩恵に疑問に感じると表明したにすぎない」と指摘。新しい政府と議会は国民全体の意見を考慮し、リトアニアにとって最も有益となる判断を下さねばならないと強調した。


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