原子力利用の準備を勧告 豪州 経済開発委員会が報告書

原子力発電所を持たないオーストラリア(豪州)で、将来的な原子力の利用に向けて、検討の必要性を示唆する意見が出された。同国政府の独立した立場の非営利経済シンクタンクである豪州経済開発委員会(CEDA)は14日、同国の将来のエネルギー・オプションについて調査した報告書を公表し、「豪州が温室効果ガスの影響緩和に本腰を入れるのであれば、原子力という選択肢についても検討しなくてはならない」と表明した。

原子力には低コストでクリーンなベースロード電源となる潜在能力があると指摘しており、再生可能エネルギーやその他のクリーン・エネルギー源が実現しなかった場合、原子力が重要なバックアップ・エネルギー源になると強調している。

同報告書・最終版の公表はちょうど、豪州の連邦政府がエネルギー白書を発表した1週間後というタイミングだったことから、CEDA最高責任者のS.マーチン教授は「白書から原子力が除外されたのは重大な手抜かりだ」と評価。原子力はCEDA報告が扱っている重要課題の1つであることを明確に示すとともに、将来、原子力が必要となった際、これを利用することが可能になるよう、今から規制枠組の構築など対策を打っておく事が重要だと勧告している。

同報告書によると、石炭やガスなど安価なエネルギー資源の豊富な豪州では、原子力は歴史的に選択肢として考慮する必要性がなかった。しかし、地球温暖化への取組がこの傾向を変化させており、低炭素経済への移行を目指す上で原子力をオプションとしないのは、経済や環境に対する破壊行為とも言えると断言している。

核燃料資源国としての潜在能力について同報告書は、「豪州には世界の原子燃料サイクルの中で一層根本的な役割を果たす機会があり、ウランの販売という経済機会のほかに、その貯蔵で対価を得ることも可能だ」との見解を表明。究極的には現時点で廃棄物と扱われている物を次世代原子炉の燃料源として販売する事も出来るとして、燃料サイクルで様々な事業の機会があると示唆した。

一方、豪州国内に原子力発電所を建設し、そこから利益を得る可能性に関しては、「いくつもの課題に取り組まねばなるまい」と言明した。例として、第3世代プラス原子炉の財政的な実行可能性に加えて、適切な資格のあるエンジニアや社会的な実施権の不足などを列挙。将来世代の原子炉が高いレベルの安全性を確保しつつクリーンなエネルギーを供給できるとすれば、小型モジュール炉(SMR)の利用こそ豪州にとって財政的に実行可能なオプションかもしれないと指摘している。

現時点で豪州が行うべき施策については、「SMRの経済性がどうであれ、地球温暖化への対応策として原子力は豪州のエネルギー構成の一部とすべき電源だ」と強調した上で、その開発のための重要ステップとして、1)国の原子力規制体制を整備する2)教育機関の設置により原子力エンジニアを育成する――が必要だと勧告。2020年頃にSMRが商業化される可能性を考えると、連邦政府は直ちにこれらのステップに取りかかるべきだと促している。

豪州は世界最大規模のウラン資源を有する一方で原子力発電を行っていない。しかし、J.ギラード首相は10月、インドが進める大規模な原子力発電開発計画に対してウラン輸出するために原子力協定の締結交渉開始に合意。ウランの採掘を禁じていたクィーンズランド州政府も採掘再開を決めるなど、国家経済にもたらされる効果への期待から、核燃料資源国として世界の原子力利用の一翼を本格的に担いつつある。


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