【特集】新規建設に向け活況を呈する英国

福島事故以降の原子力報道は、ドイツ、スイス、イタリアなど脱原子力政策を選択した国々に注目が集まる傾向にあったが、世界全体で見てみると、依然として原子力発電開発は拡大する傾向にある。昨年11月に発表されたOECD国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー見通し2012年版』でも、世界全体の原子力発電設備容量は2035年に5億8000万kW(2011年実績は3億8000万kW)に達すると予測している。

そうした中、ここ数年最も注目を集めているのが、英国の新規原子力発電所建設プロジェクトである。原子力規制体系もほぼ確立し、政策面での支援も明確に示されている英国では、外資系企業を中心とする3グループが新規建設に名乗りを上げている。昨年末にロンドンで開催された英原子力産業協会(NIA)の年次大会は、祝賀ムードに包まれていた。夕食会には国内外から1100人余が詰めかけた。

原子力産業新聞では、英国の原子力プロジェクトの概要について8面まで4ページにわたって特集する。

〈3グループのプロジェクト概要〉

1.EDFエナジー社

EDFエナジー社はフランス電力(EDF)の英法人で、ブリティッシュ・エナジー(BE)社を2009年1月に買収し、現在、英国で運転中の全てのAGRとPWRを所有している。BE社買収当時は数多くの新規建設候補サイト(戦略的サイト評価(SSA)で認定されていないものも含む)を所有していたが、市場の寡占を嫌う欧州委員会(EC)の勧告に従い、いくつかのサイトを手放した。現在は、ヒンクリーポイント・サイトとサイズウェル・サイトでの新規建設プロジェクトに注力している。

ヒンクリーポイントCプロジェクト

EDFエナジー社が英セントリカ社と組んで進めているプロジェクトで、英国で最も進展しているプロジェクトである。モデルケースとして同プロジェクトの成否が他のプロジェクトにも影響するため、注目度も極めて高い。

採用炉型は160万kW級の英国向けのアレバ社製EPRであるUKEPR×2基で、設計寿命は60年を想定。昨年12月に包括的設計審査(GDA)を完了し、原子力規制庁(ONR)および環境庁より新規建設炉型として承認された。またサイト許可も同11月に取得している。2011年10月にはインフラ策定委員会(IPC)に新設計画を申請し、IPCの審査結果を待ち、プロジェクトの実施について最終判断を下す段取りだ。

EDFエナジー社は2011年7月に地元自治体の承認を得て、サイトでの事前準備活動を本格化させている。同サイトはヒンクリーポイントA(GCR×2基、両機とも2000年に閉鎖)、同B(AGR×2基、両機とも2023年に閉鎖予定)が立地しており、新たに同Cを建設することに対し地元自治体からの抵抗は少ない。

また同社は昨年6月、仏ブイグTP社と英レイン・オルーク・グループによるJVを、土木建築作業発注先の有力候補に選定した。これはメインの土木建築工事で、契約総額は20億ポンド相当。関係するのは原子炉蒸気供給系のほかに、タービン系などのBOP(原子力発電所を構成する系統の内、原子炉蒸気供給系以外の系統)部分、および廃棄物処分や運転サービス・センターを含むすべての補助施設となっている。最終的なプロジェクト実施についての決定が下されるまで、同JVは「早期請負者関与(ECI)」の予備合意業者として工事計画や詳細設計、建設工法の開発活動などで協力することになる。

ブイグTP社は仏大手ゼネコンで、海外土木工事における完成度の高さで定評があるほか、仏国フラマンビルで建設中のEPRで土木作業を請け負った。また、レイン・オルーク・グループは英国最大の民間建設会社で、サイズウェルB原子力発電所の土木工事のほか、海外でも多くの事業を請け負っている。

欧州委員会(EC)も昨年7月、ヒンクリーポイントCプロジェクトについて、欧州連合の要求を満たしているとの同意意見書を表明している。

契約発注関係では、2011年中に仏アレバ社との圧力容器鍛造契約を済ませた。サイトの掘削や道路などのインフラ整備については昨年2月に、英国の土木建築企業と1億ポンド以上の準備作業契約を交わしている。

EDFエナジー社は、ヒンクリーポイント・プロジェクトにより、建設期間だけで最大5000名の雇用が発生し、今後60年にわたって700名の正規雇用と200名の非正規雇用が発生すると試算している。

サイズウェルCプロジェクト

同じく採用炉型は160万kW級のUKEPR×2基。

サイズウェル・サイトも、サイズウェルA(GCR×2基、両機とも2006年に閉鎖)、同B(PWR×1基)が立地しており、同Cの建設に地元自治体からの抵抗は少ないようだ。

EDFエナジー社は、昨年11月より地元を対象にした公聴会を開催している。建設期間だけで最大5600名の雇用が発生し、今後60年にわたって700名の正規雇用と200名の非正規雇用が発生すると試算している。

2.ホライズン・ニュークリア・パワー社

ホライズン・ニュークリア・パワー社はドイツ電力最大手のEオン社と第2位のRWE社が、英国で新規原子力発電所を建設するために2009年11月に設立した合弁会社。ウェールズ北部のウィルファ・サイトとイングランド南西部のオールドベリー・サイトに注力し、当初は2サイトに最大各330万kWの原子力発電設備容量を新設する計画を掲げた。採用炉型は、UKEPRあるいはAP1000を想定していたようだ。

しかしドイツの電力2社は昨年3月、独政府の脱原子力政策を受けてホライズン社の売却方針を決定。プロジェクトは一時宙に浮いた状態となったが、日立製作所が同社買収に乗り出し、採用炉型を一新してプロジェクトを遂行することになった。新しいプロジェクトには、英バブコック・インターナショナル社、英ロールス・ロイス社、加SNCラバリン社が協力する。

採用炉型は日立GEニュークリア・エナジー社製130万kW級ABWRで、ウィルファ・サイトとオールドベリー・サイトにそれぞれ2〜3基建設する計画だ。

ウィルファ・サイトでは現在、ウィルファ1号機(GCR、56万5000kW)が運転中で、同2号機(同)は閉鎖されている。オールドベリー・サイトではGCR2基(各23万kW)が閉鎖されている。

ホライズン社によると、ABWRのGDA申請も近く実施される見込みで、GDA審査と並行して、サイトでの準備作業を進めたい考えだ。また各サイトでのプロジェクトにより、建設時にはそれぞれ5000名の雇用が発生し、運開すればそれぞれ800〜1000名の雇用が発生すると試算している。

3.ニュージェン社

スペインのイベルドローラ社、仏GDFスエズ社、英スコティッシュ&サザン・エナジー(SSE)社が2009年2月に設立した合弁会社。同10月に英原子力廃止措置機関(NDA)よりセラフィールド・サイト近郊の用地を7000万ポンドで取得し、ムーアサイド・プロジェクトと名付け、採用炉型は未定ながら合計出力360万kWの原子力発電所の建設を目指している。

2011年7月に英アラップ社をプロジェクトのコンサルティング会社に、英GLハーン社をプロジェクト・アドバイザーに選定し、同11月よりサイト特性調査を実施している。2015年頃に最終的なプロジェクト実施判断を下す予定だ。

なおSSE社は、2011年9月にプロジェクトから撤退した。


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