致命的技術欠陥は否定 ASMEが福島事故を検証

福島事故後、世界ではいかにして原子力開発における安全確保を徹底し、今後の継続的な利用につなげていくか議論するシンポジウムや国際会議が数多く開かれている。米国では機械工学の職能団体であるアメリカ機械学会(ASME)が昨年6月、福島事故を受けて工学的な側面から原子力利用のリスク評価について課題を抽出する報告書を専門家タスクフォースにより刊行。12月初旬には同報告書で提示した勧告に取り組むための活動枠組み策定ワークショップ(WS)をワシントンで開催した。

「新たな原子力安全概念の構築を目指して」と題した同WSには、世界19か国から原子力コミュニティを牽引する関係者125名が参加。その中には松浦祥次郎・元原子力安全委員長や原産協会の服部拓也理事長、米規制委の委員も含まれる。既存の、あるいは浮上しつつある安全概念に基づき、新たな概念の必要性に関する合意点を模索するとともに、ASME勧告の重要要素を推進するにあたり、世界中で利用可能な形で福島後の包括的概念に組み込まれるべき重要な対策を含むロードマップについて、具体的な計画を導く議論が展開された。

福島事故では放射能の放出により広範囲の社会的混乱が引き起こされたことから、同WSの基調に据えた6月の報告書では、ASMEはこうした混乱を防止するために既存の安全計画を超える新たな原子力安全概念の構築が必要だと提唱。適切な安全手順とガイドラインの策定は原子力に対する一般大衆の受容を促すのに非常に重要との見解を示している。

また、福島事故の特徴をTMI、チェルノブイリ両事故と対比してみると、3つの事故は「事故前および事故の際の炉心冷却メンテナンス」という共通項でリンク。原子力工学の基本である炉心冷却について、福島では事故対応計画に適切な注意が払われていなかったとASMEは指摘した。

「新たな安全概念」の特徴としては、原子力発電所の設計・建設・操業・管理において、放射能放出に起因する広範囲な社会的混乱が防止できるよう計画され、調整され、実行される一連のシステムを定義。ここでは、あらゆるリスク管理手法が活用されるが、その際、「発生することは希(まれ)でも起こり得る事象」など、確率論的リスク評価で想定されるすべての災害に対する熟慮が必要だとしており、巨大規模の洪水等の自然災害のように、先例は無いが任意の原発サイトで起こり得る、発生確率の極めて低い事象が含まれるとしている。

こうした安全概念における重要要素として、以下の方法をASMEは提示。すなわち、(1)設計ベースを超える潜在的な事象とクリフエッジ効果に取り組むための能力(2)設計ベース、あるいはこれを超える事象として「希だが起こり得る事象」が含まれることを確認(3)あらゆるリスク管理手法を活用し、事故経過中の全段階において炉心の冷却を保証(4)人的能力や組織インフラ、指揮統制、事故管理および緊急時対策の改善――である。

このようなアプローチこそ、一般大衆の健康と安全を防護するための産業界の設計ベースを、大幅に拡大するとASMEは強調。ただし、産業界は安全計画の範囲拡大のみならず、一般大衆との意思疎通においても先を見越した積極性が要求される。福島事故は原子力発電技術の致命的な欠陥を顕在化させたわけではない一方、津波やその他の、「希であっても発生し得る事象」に対する設計ベース拡大の必要性を露呈したとASMEは述べている。

原子力安全における最大目標は、常に一般大衆の健康と安全の防護であるが、福島事故は放射能放出に起因する潜在的な社会的、政治的、経済的な影響の一層の軽減を目指して、追加手段を講じる必要があることを明示。ASMEでは、こうした新しい安全概念が規制指示として課されるよう求める考えはなく、既存の、追加の設計管理能力を徹底分析することにより、自然発生すべきとの考えを強調している。


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