安全目標の検討にも着手、10年ぶり 規制委員会 運転期間延長認可制度の検討も 敷地内破砕帯ではピア・レビュー 原子力災害指針を決定

原子力規制委員会は2月27日、新たな原子力災害対策指針を決定したほか、今後の大きな課題である核セキュリティ、敷地内破砕帯の評価案に関するピア・レビュー、運転期間延長認可制度、安全目標などの検討に着手することを決めた。安全目標の検討は、旧原子力安全委員会の専門部会が2003年に中間取りまとめを行って以来、10年ぶり。

安全目標については、03年12月に旧原子力安全委員会の安全目標専門部会(部会長=近藤駿介・東京大学院工学系研究科教授=当時、現原子力委員長)が取りまとめた「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」があり、約3年の歳月をかけて作ったもの。

その主な内容は、定性的な目標として、原子力利用に伴う放射線や放射性物質の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意には増加させない水準に抑制すること。定量的な目標としては、原子力施設の事故の場合でも、放射線被ばくによる(1)施設の敷地境界付近の公衆個人の平均急性死亡リスクは、年当たり100万分の1程度を超えないように抑制されるべき(2)がんによる施設からある範囲の公衆個人の平均死亡リスクも、年当たり100万分の1程度を超えないように抑制されるべき――としている。

その事故原因事象としては、機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミスなどいわゆる内的事象と、地震および津波・洪水や航空機落下などいわゆる外的事象の両者を対象と考えており、当時、産業破壊活動などの意図的な人為事象は対象外としていた。

今回、規制委員会としても安全目標の審議を行うことを決定したことについて、更田豊志委員は「安全目標は言い換えれば、残存リスクがあるということを示すもの。『ゼロリスクという安全神話』を復活させないことに意義があり、1つの意志の表明だ」と述べたほか、「たいへんいい報告書が委員会決定できなかった状況が問題だ」と付け加えた。

田中委員長が「なぜ委員会決定できなかったのか」と問うたのに対して、更田委員は「安全目標を示すことは、個々の原発にリスクが存在することを意味し、ひるんだと思う。個別プラントの比較を結果として行うことになるので、公に議論してこなかった。これに対する抵抗が、事業者や地元自治体にあったのではないかと私は推察している」と語った。

安全目標中間取りまとめ時の原子力安全委員長だった松浦祥次郎氏のコメント 当時は機器の損傷確率などはあっても、欧米でも人の死亡率で原子力施設の安全性を評価してはいなかった。私は時期尚早だとは思っていなかったが、原子力専門家の中にもいろいろな意見があったので、このままでは前に進めるのは困難だと判断し、委員会決定にはしなかった。


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