フィルターの設置問題先送り 米規制委、格納容器ベント問題で指示

米原子力規制委員会(NRC)は19日、米国内で福島と同様の事故発生の可能性がある31のBWRで炉内圧力を安全にベントするシステムを一層改善するため、2種類のアプローチで取り組むようNRCの技術スタッフに命じた。議会や産業界の意見を汲み、事故時の放射性物質放出量を軽減するフィルターの設置を直ちに義務付けるのではなく、1年間の技術評価期間を設け、フィルター設置のほかに既存システムの冷却性能などを向上させて対処するアプローチの両方を考慮するようスタッフに指示。事故時の炉心溶融物冷却と放射性物質保持のための最終規則を4年間で策定するため、総合的な規則制定活動も開始することになる。

今回の1つ目の指示は、マークT、U型の格納容器を有するBWRに信頼性の高い強化ベントを設置するよう事業者に通達した昨年3月の指令をさらに改善要請する内容。具体的には、損傷した原子炉内で上昇した圧力と温度および放射能レベルに対処可能となるベント要件を確定する方針だ。発電所職員が事故の条件下でベントを安全に操作可能になることも徹底させるとしており、そのための「指令の改善」は60日で完了するようスタッフに命じている。

2つ目のフィルタリング規則を制定するための技術評価に関しては、1年間の猶予をスタッフに与えたもので、この間に分析作業を終えるため、さまざまな関係者からの意見もさらに募集。規則案と最終規則のすべてを2017年3月末までに策定しなければならないと言明している。

福島後のNRC対応

NRCは福島事故の直後、同事故の分析特別タスクフォースを短期と長期の2本立てで設置。短期チームによる報告書の勧告に基づき、2012年3月にNRCとして初めて3種類の規制要件を国内原発に発令したが、そのうちの1件がマークT、U型の格納容器を有するBWR31基で信頼性の高い強化ベントへの改善あるいは設置を指示するものだった。

具体的な強化策としては構造上の強化のほかに、放射性物質の放出量を抑えるフィルターの設置が考えられた。しかし、1基当たり1500万ドルを超えるとの見方があり、産業界では「フィルターの設置については除外も強制もせず、原子炉の性能に基づいて、注水による溶融物の冷却など個別に最良の対策を決めるべきだ」と主張していた。

このため、NRCスタッフは昨年11月、以下の4つの指令オプションを比較評価。すなわち、(1)強化ベント設置要件は継続して満たす一方、フィルターの設置など追加の措置を取らない現状維持(2)フィルターなしで過酷事故に対応可能な強化ベントに改修、取り替え(3)フィルター付きベント・システムの設置を義務付け(4)過酷事故時の閉じ込め戦略として技術的な容認基準と要件を策定――で、このうち(3)が「規制上、最も確実」と結論づけた。また、定量的観点のみでは設置の恩恵がコストを上回ると実証できないものの、質的要素を考慮すれば設置の要求決定は正当化されるとの見解をNRC委員に提示した。

議会はフィルター設置の義務化に反対

これに対して、今年1月に議会下院のエネルギー商務委員会メンバーらがコスト負担増による影響に鑑み、費用対効果の分析不足を訴える書簡をNRCに提出(上記記事参照)。2月には下院の民主党員26名、両院の共和党員グループがそれぞれ、フィルターの設置要件に難色を示す書簡をNRCに送っている。

NRC委員5名はスタッフの提示した4オプションについて票決。マクファーレン委員長は(2)〜(4)に賛成しつつ(3)を支持し、もう1名は条件付きでフィルターの設置を提案。残りの3名は主に(2)に賛成する一方、(3)には慎重な姿勢を示しており、今回の2つの指示は、このような投票結果に基づいてまとめられた。


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