英国、新たな原子力の将来戦略策定 官民の協力で海外展開も

英国政府のビジネス・技術改革・職業技能省(BIS)とエネルギー気候変動省(DECC)は3月26日、同国が民生用原子力利用で世界でも主導的な立場になるまでの方向性を示した戦略報告書、「英国の原子力の将来」を共同発表した。原子力が同国の将来のエネルギー・ミックスの中で重要な役割を担うという明確な期待の下、原子力を通じたビジネス・チャンスの拡大によって経済成長と雇用の創出を刺激するため、同国政府と原子力産業界が一貫性のある長期的なアプローチとして詳細に練り上げた計画。両者が一体となって国内の原子力市場を商業基盤として構築するのみならず、世界をリードすることを目標に、意欲的な戦略を示した。

英国では昨年9月に産業界全体に関する新たな政府戦略を打ち出しているが、今回の原子力戦略は有望な部門に対する支援戦略の一部という位置付け。折しもDECCはこの1週間前、新設計画では初となる開発合意書をEDFエナジー社のヒンクリーポイントC計画に発給したばかり。先触れとして、新設計画の短期的チャンスに焦点を当てた「原子力供給チェーン活動計画」が昨年12月に公表されているが、同戦略は実質的に、議会上院・科学技術特別委員会が2011年にとりまとめた英国の原子力研究開発能力に関する報告書等への対応作業の中で策定された。この作業の直接的な結果として6つの文書――「原子力供給チェーンの能力改善による経済的利点」、「原子力産業ビジョン声明」、「原子力研究開発ロードマップ」など――が今回の将来戦略と同時に公表されている。

「国内市場」

同戦略ではまず、CO排出量抑制面で原子力が果たすべき重要な役割があるとの認識を明示。その上で、「国内市場」に関する目標として(1)エネルギーの長期的な供給保証等により、英国の商業機会を最大限に拡大できるような原子力市場とする(2)国内市場を原子力全般にわたる英国の優秀さを国際市場に示す場とする――などを提示した。

その指標となる具体的な節目として、2030年までに5つのサイトで最低12基、1600万kWの原子力設備を完成させるほか、それ以降2050年頃までに経済的利点の大きい第3世代プラス、第4世代原子炉、および小型モジュール炉(SMR)などで、さらなる設備の増強を目指すとしている。

「未来を構築するための技術革新と研究開発」については、(1)英国の経済とエネルギー供給保証に資する原子力研究開発を産官学が結束して実施(2)国内外の市場で商業的な成功が短・長期的に保証されるよう適正な研究開発レベルを保有――などが目標だ。

そのための具体的な計画の一部としては、研究開発により既存炉の運転寿命を2030年頃まで延長するほか、第一陣の新設炉建設による教訓や先進技術開発を海外輸出用の第3世代プラス原子炉の研究開発、輸出用商業SMR機器の製造や組立に活かす。それ以降はウラン濃縮から廃棄物の処分まで、強力な国産能力を獲得する一方、新たな技術で海外市場にも寄与していくとしている。

「強力な国際プレゼンスの構築」に関しては、(1)将来技術で燃料サイクル全般の進展を牽引する、国際的にも主導的な立場の原子力国となる(2)第3世代プラス、第4世代炉およびSMRを世界レベルで商業化していく際の主要パートナーとなる(3)放射性廃棄物管理と廃止措置の分野で世界のリーダーとなる――などを目指す。

このため、2030年頃までは包括的な輸出提案によって海外の新設計画に深く関与。事業者と組んで第3世代炉の導入国に保守管理パッケージを提案するほか、海外の軽水炉市場には燃料を供給していく。それ以降は第3世代プラスと第4世代炉、SMRの技術開発で英国の産業を国際展開していく方針だ。

年内に輸出戦略も策定

同戦略ではまた、これらを着実に実施していくための主要アクションおよび短期的な工程を表に作成。政府と産業界の分担についても明確に示した。例としては、産官学が利用可能な国立の原子力施設に政府が1500万ポンドを2012〜14会計年度で投資。政府と産業界が協力して原子力輸出戦略を今年の第4四半期までに策定するほか、仏国のジュール・ホロビッツ炉開発に参加するため、今年の第1四半期中に政府が協定に調印する、などとしている。


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