「温暖化防止に原子力必要」 IEAがクリーン技術の取り組みで報告書

国際エネルギー機関(IEA)は17日、クリーン・エネルギー社会への移行に対する世界各国の取り組み状況を検証した報告書をインドで開催中の第4回クリーン・エネルギー閣僚級会議で公表した。原子力を含む11のクリーン・エネルギー技術について最新の開発状況を調査した結果、石炭火力の利用が引き続き発電技術の主流であるなどとして各国政府の努力不足を厳しく指摘。世界平均の気温上昇を2度以内に抑えるという目標達成のために原子力の果たす役割は大きいと明言しており、必要とされる速度で新規原子炉の建設が可能となるよう、電力市場メカニズムと投資条件の改善が望まれると各国政府に勧告している。

IEAは昨年、2050年までに持続可能なエネルギーシステムを達成するまでの道筋を設計した「2012年版エネルギー技術展望(ETP)」を発表し、気温が2度ずつ上昇した場合の各シナリオを分析したが、今回の報告書は、2度の上昇シナリオ(2DS)で設定した各クリーン・エネルギー技術の開発と最終消費部門における2020年までの中間目標の達成レベルを追跡調査。主な判明事項のうち、苦言として次の点を指摘した。

(1)「進展速度が不十分」=世界ではETP・2DSにおける2020年までの中間目標実現に向けた作業が軌道に乗っていない(2)「世界のエネルギー供給はクリーンになっていない」=石炭火力が相変わらず発電量増加分の大半を占めており、新興国では特に、経済成長を石炭に強く依存している(2)市場における大きな失態はクリーン・エネルギー技術の採用を阻んでいること――など。

一方、評価されるべき部分としては、(1)2012年は再生可能エネルギー発電が引き続き拡大した(2)多くのクリーン・エネルギー技術で期待以上に迅速にコストが削減された(2)新興国を含めて多くの国が2012年にエネルギーの効率化規制を導入あるいは強化した――などを挙げた。

原子力の増強が必要

原子力については、福島事故後に世界の政策が安定化しつつあると指摘した。しかし、新規原子炉の大規模建設が必要であるにも拘わらず過去10年間の増強速度は非常に遅く、福島事故と世界的な経済不況の影響で、新規着工速度が低下したことから、「順調に進んでいない技術」に分類。気温の上昇を2度以内に抑えるという2DSの目標達成で原子力が果たす役割の大きさに言及した。

現時点で原子力設備は2025年までに4億4000万kW〜5億5500万kWまで増加すると予測されており、高ケースでも2DS目標の達成には不足する見通し。2025年までの原子力発電シェアを16%まで上げる必要があるため、20年までに設備を少なくとも年間1600万kW、その後は年間2000万kW拡大しなければならないとの見方を示している。

こうした状況から、IEAは原子力に関して次の点を勧告した。すなわち、(1)新たな原子炉を必要とされる速度で建設するため、一層有利な電力市場メカニズムと投資条件が必要。自由化市場や燃料価格の安い技術との競合市場では特に、原子炉新設の際の巨額の先行投資コストが大きな課題となっている。英国が電力市場改革で盛り込もうとしている固定価格買い取り制度(CfDs)のように、すべての低炭素電源に公平なシステムであれば、原子力への投資を一層魅力的なものにできる。

(2)原子力の社会的受容性を改善するため、政府は原子力の利点とリスクに関して、事実に基づいた科学的に信憑性の高い情報が得られるよう保証し、環境保全やエネルギー供給保証において原子力が果たす役割を強調するなど、すべての利害関係者と努力しなくてはならない。また、政府は規制当局、電力事業者とともに、福島事故を受けた既存炉の安全性改善を迅速に実行し、重大な外部事象に対する国民の懸念解消に取り組むべきだ。

(3)政府はまた、2050年までに一層経済的かつ安全な原子力技術を得るため、先進的な原子炉の研究開発・実証支援を加速すべきである。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで